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【読書メモ】多様性とキャリア自律:『キャリア開発論 自律性と多様性に向き合う』(武石恵美子著)

武石先生の『キャリア開発論 自律性と多様性に向き合う』の最終章では、多様性キャリア自律についてまとめられ、実践的な示唆に踏み込んで書かれています。企業で働く個人にとっても、経営や人事として関わる方にとっても、社会的な施策に取り組む方にとっても気づきの多い章と言えそうです。

多様性の重視がキャリア自律をすすめる

ダイバーシティ、DE&I、多様性、といった概念が企業経営で待ったなしに重要になってきています。受身的な対応だけではなく、積極的に経営に活かす動きも耳にするようになってきました。

こうした多様性を重視する経営の姿勢と取り組みが社員のキャリア自律をすすめるという側面があると著者は指摘しています。

人材の多様性を組織の力にする、という方針を徹底させようとすれば、働く人個々人の様々な発想・意見や個別事情に向き合うことになる。従来型の組織主導のキャリア開発は、この多様性と齟齬を来しはじめている。

p.247

多様性とキャリア自律という二つの概念を別個に扱うのではなく、相互に影響し合うものとして捉えることが大事と言えそうです。著者は、個人の主体的なキャリア開発をすすめるために自助、共助、公助、の三点からポイントを整理しています。

自助

個人のキャリア自律という言葉からは自助をイメージすることが自然でしょう。自身のキャリア開発に責任を持って取り組むことはまさに自助です。これは、これまでの日本の雇用社会およびそれに伴って企業が個人のキャリア開発を管理してきたという従来のあり方と対比的に論じられています。

自助というアプローチは必ずしも遠心力へとつながるものでないことは、個人の自律と組織へのコミットメントとが両立することを述べた第4章までのまとめのところで述べたとおりです。

共助

キャリア開発における共助とは、組織による支援のことを指しています。キャリア自律が自助を意味するとはいえ、組織が何もしなくても良いとはなりません。現実的に考えれば、キャリア開発に向けて何もしてくれない企業組織を個人はあえて選択するケースは少なく、組織としていかに個人のキャリア開発を支援するかは重要な要素となってくると考えられます。

共助を実現するためのポイントとして著者は、①マネジメントが真摯に個人のキャリア志向性と事業運営とのすり合わせに取り組むこと、②個人が自身のキャリアに気づけるよう支援すること、③社内公募などの制度のしくみを整えること、を提示しています。いずれも重要な示唆と言えそうです。

公助

キャリア開発は個人と組織だけの課題ではなく社会的なイシューと言えるため、公助の領域も視野に入れる必要があると著者は最後に指摘しています。①企業内におけるキャリアコンサルタントをはじめとした専門家による支援体制の整備、②企業外における教育機会や雇用情報の提供、③企業内での育成システムからこぼれ落ちる個人へのキャリア支援の実施、などが挙げられています。

いずれも傾聴すべき重要な指摘です。加えるとすれば、本書は企業で働く人々を対象としているので除外されていますが、公助では組織に入る前の存在、すなわち学生に対するキャリア教育も重要と言えるでしょう。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!

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