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【論文レビュー】ワーク・デザイン論の流れーー科学的管理法から職務特性理論を経てJD-Rモデルへ:高尾(2021)

高尾義明先生が有斐閣の「書斎の窓」で2021年から2022年にかけて連載されていた「ワーク・デザインの過去・現在・未来」(全6回)を読み返しています。改めて、面白いです!以下のリンクから無料で読めますので、ご関心のある方はお読みになってみてください。テイラーの科学的管理法から、ハックマン&オルダムの職務特性理論を経て、JD-Rモデルへと至る流れのようなものがとても興味深かったので、その点を中心に所感を書いてみます。

ワーク・デザインの過去・現在・未来① 仕事の変化を読み解くために
(書斎の窓 2021年3月号(No. 674) p.32-36)
ワーク・デザインの過去・現在・未来② 職務特性理論とその後の展開
(書斎の窓 2021年5月号(No. 675) p.51-55)

ワーク・デザイン論

本シリーズの最初にはジョブ・デザイン論の嚆矢であるテイラーの科学的管理法が挙げられています。ここでしれっとジョブ・デザインという言葉を私は使いましたが、高尾先生は、ワーク・デザインはジョブ・デザインを含むものとしています。具体的には、ジョブ・デザインという職務そのもののデザインだけではなく、職務を取り巻く場所や時間といった環境や他者との関係および広い学問分野で蓄積された研究の統合を志向するものである、としています。

では、科学的管理法の何がすごかったのか、というと、仕事をtask(課業)に分解して管理可能にしたということにあるようです。

なすべき仕事をタスクに細分化し、その量を把握するという発想は、現代においてはあまりに当たり前すぎて、その意義を実感しにくい。しかし、科学的管理法が適用される前の、労働者任せの成行管理ではこうした方法は決して一般的ではなく、テイラーによって発明されたといっても過言ではない。

書斎の窓 2021年3月号(No. 674) p.34

日々の業務遂行において自身でタスク管理をしたり、マネジャーがメンバー全員のタスクの状況をフォローしたりする、といった発想は現代では自明のものです。当たり前すぎるものを、言語化して浸透させたテイラーはやはりすごい人なのでしょうし、ここからワーク・デザイン論の流れが始まったということは言えそうです。

二要因理論

タスクに焦点が当たっている科学的管理法では、タスクが主たる位置にあり、人はそれを遂行する存在として位置付けられていた、とも捉えられます。ただ、人という要因によってタスク遂行が好ましいものになったり、そうでなかったりもしますよね、という観点から仕事におけるモティベーションに焦点が当たるようになりました。

具体的には、ジョブに焦点を当てた科学的管理法から、他者との関係性や新人間関係論の流れを汲むハーズバーグの二要因理論(動機づけー衛生理論)へと至る流れが取り上げられています。現代のマネジメント向けのトレーニングでも二要因理論が取り上げられることはままあるようですが、その実験手法には批判も多くありました。この辺りの詳細はビジネスリサーチラボの伊達さんが精緻に解説してくださっているので関心がある方は以下をお読みください。

二要因理論の新人間関係論の系譜でありながら、職務そのもののモティベーションを分析的に捉えたものがハックマン&オルダムの職務特性理論です。

職務特性理論

私の最初の修論は職務特性理論をベースにしたものなのだったりしますので、書き始めると説明が長くなりがちなのでなるべく抑制的に書きます。まず、高尾先生による職務特性理論の要約的なまとめが大変参考になるのでいかに引用します。

 技能の多様性、タスク完結性、タスクの有意味性、自律性、フィードバックが職務特性の核次元として特定され、それらの変化が、仕事の有意味感などの認知的心理状態の変化に媒介され、内発的な動機づけや職務満足に影響するというものである。もう一点加えるとすれば、それらの関係が成長欲求の高さで調整されることである。

書斎の窓 2021年5月号(No. 675) p.51-52

職務特性理論をこのようにきれいに要約できればよかったなと羨望の眼差しで上の引用箇所を読みました。ちなみに私の修論は、上の「成長欲求の高さで調整される」というところに対して本当にそうなんでしたっけ?と考えてリサーチ・クエスチョンを設定し、キャリアの概念をベースにして質的にコーディングする、というものでした。ご関心のある方は、SFCの図書館のどこかに眠っている論文を探してみてください(笑)。

JD-Rモデル

職務特性理論は、職務そのものに焦点を当ててモティベーションとの関連を見ようとするものでした。そこには、ワークをデザインする主体はあくまで経営者であり会社であるという前提が暗黙の裡にあったとも考えられます。

ハックマンとオルダムは、彼らのモデルは労働者のモチベーションを高めることを通じて、成果を上げていくと同時に労働疎外の問題の解消を促進すべく開発されたと述べている。テイラーの時代には問題視されていなかった労働の質について、彼らが視野に入れていたのは間違いない。しかし、職務要求度への注目の決らに典型的にみられるように、職務特性モデルには経営者的視点からの問題意識の方がより強く反映されており、その意味では前回取り上げたテイラーとの共通点が見出せる。一方、高い職務要求が労働者の心理的・身体的健康にもたらすネガティブな影響に着目した新たな潮流は、働く人々のウェルビーイングをより重視しているといってよいだろう。

書斎の窓 2021年5月号(No. 675) p.53-54

タスクの効率的管理を目指す科学的管理法と労働者の労働意欲の意欲の向上を目指した職務特性理論とは経営者の立場に立つ、という点では共通しているとも言えます。それに対して働く個人のウェルビーイングを重視して仕事の要求度に着目した理論・モデルの主要な一つがJD-Rモデル(職務要求度ー資源モデル)です。

JD-Rモデルが出てきた歴史的な背景について、科学的管理法、二要因理論、職務特性理論から眺めてみると興味深いものがあります。高尾先生の全6回の連載の3作目以降では、プロアクティブ行動、ジョブ・クラフティング、i-dealsといった概念が登場するので、ご関心のある方は冒頭のリンクからバックナンバーをお読みになってみてください。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!

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