【論文レビュー】メンバーに完全主義を求める上司は若手社員にどのような影響を与えるのか?:池田他(2024)
完全主義という概念には、自分自身に向けたものと他者に向けたものとがあります。本論文では後者に焦点を充てて、上司の他者志向的完全主義がメンバーのパフォーマンスやストレス反応にどのような影響を与えるのか、また勤続年数による違いはあるのかについて明らかにしています。若手社員に上司はどのように対応すると良いのか、という多くの日本企業が直面する課題に対して示唆を提示してくれているありがたい論文です。
結論
本論文の分析モデルは少々複雑に見えるかもしれませんので、まず仮説の全体像を見てみましょう。
これらの仮説の検証結果として、仮説1-a、1-b、2-a、2-b、3-b、4-a、4-b、5-a、6-b、7が支持、仮説9が一部支持されました。他方で、仮説3-a、5-b、6-aは支持されなかったとしています。
他者志向完全主義のプラスの側面
直感的に捉えると、上司がメンバーに対して完全主義を志向している場合、メンバーは辛いと感じると考えられますよね。先行研究でもそのように捉えられていたのですが、本論文は上司がメンバーに完全主義を志向している場合におけるプラスの側面があることを明らかにしています。
つまり、上司の他者志向的完全主義がメンバーの完全主義的努力を通じて(仮説1-a)、タスクパフォーマンスの向上(仮説2-a)に影響を与える可能性があるのです。
他者志向完全主義のマイナスの側面
他方で先行研究と同じ結論も出ています。上司の他者志向的完全主義はメンバーの完全主義的懸念を通じて(仮説1-b)、タスクパフォーマンスが低下(仮説2-b)したりストレス反応が高まる(仮説3-b)リスクがあることも読み取れます。
メンバーが若手社員の場合の対応
こうした影響関係に関して、メンバーの勤続年数による調整効果を見ている点も大変示唆的です。まず、入社3年以内のメンバーの場合、上司の他者志向的完全主義は若手社員の完全主義的努力を強め(仮説4-a)、完全主義的懸念も強める(仮説4-b)ようです。
さらに媒介効果も検証されていて、完全主義的努力を通じてタスクパフォーマンスを高めること(仮説5-a)と完全主義的懸念を通じてストレス反応を強めること(仮説6-b)も明らかになっています。若手社員であれば、自身も完全主義であろうと努力してパフォーマンスが高まるというプラスの側面と、完全主義であれねばならないという懸念からストレスも強まるというマイナスの側面もあり得る、ということのようです。
内的統制の強さが鍵!?
本論文での調査は、若手社員のどのような特徴が統制するのかについては検証されていません。しかし実践的示唆の項において、メンバーの内的統制が高い場合には上司の他者志向的完全主義の弊害を経ずにエンゲージメントが向上するという先行研究を基にして、メンバーの内的統制が媒介効果に影響を与えるのではないかと推察されています。
他者志向的完全主義の強いマネジャーとその複数のメンバーとの状況を身近に見ていた限られた経験からすると、この推察はとても理解できるものです。プラスの側面もマイナスの側面も、内的統制に関する示唆についても観察できていたように思います。メンバーの内的統制との関係については今後の検証が待たれるものの、希望が持てる推測と言えるのではないでしょうか。
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