【読書メモ】論文の導入では何を書くべきか?:『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大著)
阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の第7章のタイトルは「イントロダクションにすべてを書く」です。今回はこの章を読み込んで、論文における導入部分についてポイントを整理します。
導入がダメだと論文は読まれない
最初の修士の頃、TAを担当している恩師の授業のレポートを数百人分読んでいたことがあります。学期末頃の恒例行事でした。小論文を入試に課している学校にしてはどうなんだろうかと思うこともままありましたが、あまり乗り気でない授業のレポートだったとしたら学部時代の私のものも大差なかったのかもしれません。
数をこなすとわかってくるのは、論文の最初のパラグラフを読めば大まかなレベル感は判明します。授業の内容をある程度理解して自身のアーギュメントを打ち出せる学生は、冒頭からそれがわかるものです。言い方を変えれば、冒頭で「あれ?」と思うレポートは、その後の内容を読み通しても疑問が消えません。そういう意味で「イントロがダメならもうその論文はダメだとは言える。」(p.137)という著者の辛辣な記述は事実なのでしょう。つまり、イントロは良い論文の十分条件ではないものの必要条件ではある、ということです。
導入で書くべき内容
では導入で書くべき内容はどのようなものなのでしょうか。
著者は、主張、価値、あらすじ、の三点セットを書きましょう、と述べておられます。もちろん、掲載する学術誌の体裁に合わせる必要はありますので、要旨に主張とあらすじを書き、その後の本論の冒頭のパートでアカデミックな価値を示すために先行研究群の中での位置付けを記述するという書き方もあるでしょう。
細かな差異は現実的にはあるものの、こうした三つを論文の冒頭の部分で読み手に理解してもらうということが重要だと読み替えればOKと言えます。
先行研究の議論を更新する
アカデミックな価値を示すためにはどうすれば良いのでしょうか。以前の章で扱われていたアカデミックな価値に関する内容を基に、先行研究との関連性を以下のように記述しています。
「ここが新しいんですよー」というように新規性を提示することはよく言われますが、著者は、先行研究の流れや文脈を整理した上で自身のアーギュメントがどのように位置づけられるのか、を提示せよとおっしゃっています。「現行の「会話」をなんらかのかたちで更新する」というのは深みのある至言です。
おまけ
導入が大事だという話を延々と書いてきました。ただ、私自身は導入がとても苦手です…。筆頭筆者になっている論文がぼちぼち公開されますが、要旨(アブストラクション)や本論の導入の内容は、本書を読む前に書いたものですので、どうぞ寛大な心でお読みください。
最後までお目通しいただき、ありがとうございました!