
【読書メモ】古典的名著を読む意義とは何か:『組織論の名著30』(高尾義明著)
本書の第1章では古典的名著が解説されています。具体的に取り上げられているのは、『経営者の役割』(バーナード)、『経営行動』(サイモン)、『オーガニゼーションズ』(マーチ&サイモン)、『企業の行動理論』(サイアート&マーチ)の4冊です。本書をガイドラインにしながらこれらの古典に取り組むと、大きい流れの中での位置付けや役割を踏まえて理解を促進できるのではないでしょうか。
古典的名著の読み方
4冊の解説を読んでいて興味深かったのは、高尾先生の名著の読み方がちらほらと開示されている点です。まずは大学院生との輪読で読み込むというアプローチです。私も、一人で理解するのが困難な書籍や専門性が少しズレる領域の書籍に関しては、研究者の先輩数名との読書会で深めることがよくあります。そのため、輪読というアプローチの有効性は十分に理解しているものの、高尾先生のような方も大学院生徒の輪読で理解を深めるのだなというのは新鮮な気づきでした。
また、もう一つ面白かったのはChat-GPTに要約することを試みておられる点です。本書を未読の方が誤解しないように申し添えておきますと、Chat-GPTの要約を踏まえて内容として不足している部分がまだ多いことを高尾先生は指摘されて、ご自身で要約・解説されています。Chat-GPTに頼るのは危険ではあるものの、対話パートナーとして理解を深めていくことは今後の名著へのアプローチになりそうです。
総合的なナレッジとしての古典
名著の古典の解説を読んでいると、古典においては実践と研究とが融通無碍に往還しながら書かれていることが理解できます。特に、『経営者の役割』の著者であるチェスター・バーナードはどちらかというと実践者の趣が強いタイプです。
彼はハーバード大学を中退してアメリカ電話電信会社(AT&T)に入社し、四一歳からニュージャージー・ベル電話会社の社長を二一年間務めた(一九二七年〜一九四八年)。本書出版もその在任期間中である。
組織(行動)論は、主には企業組織を対象とした組織における科学知であり、そのため、実践と研究とが綯い交ぜになった領域です。現場における実践知から研究としての科学知が形成されるというプロセスがあり、他方で科学知を現場において実践することで実効性を高めるといったプロセスもあります。
また、組織や人を対象とするために、さまざまな学問領域における知識が総合格闘技のように集められ統合されながら結実するものとも言えます。そのため学際的な側面が強い領域といえます。
実践と研究の乖離やタコツボ化はいつ起きた?
このように古典的名著を読んでいると、実践と研究が(良い意味で)混ざっていて、かつ多様な領域での知が統合されて描かれていることがわかります。こうした骨太の議論が根幹にあったにも関わらず、現代においては実践と研究の乖離や、多様な領域に閉じるタコツボ化が起きているといえます。
新たな知見を生み出すためには、細かな領域に絞り込まれることは科学的アプローチの自然な流れともいえます。こうした与件を踏まえて、古典的名著に立ち返り、またグランドセオリーや中範囲の理論に基づきながら、現代を生きる研究者は自身の研究をすすめていく必要があるのかもしれません。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!