【論文レビュー】組織からの組織社会化の働きかけによって個人は何を学ぶのか?:小川(2006)
小川先生の博論の一本目の研究は量的調査です。組織社会化戦術が、個人のどのような学習を促して、組織コミットメントや職務パフォーマンスに影響するのか、を明らかにしています。意訳すれば、新人研修や配属後のOJTがどのような効果を持っているのかに関する研究知見を提供している調査と言えます。
結果の概要
どのような組織社会化戦術が、組織環境に関する多様な個人の学習のうちの何に影響(一次的社会化成果)し、一次的社会化成果を媒介して(一部は直接的に)職務パフォーマンスと情緒的組織コミットメントにどのように影響(二次的社会化成果)しているのかを表した図が以下です。
実務に活かすための示唆
上記のパス図から理論的示唆を経て、実践的示唆へと丁寧に噛み砕いて説明してくださっているのが本論文の素晴らしさの一つだと思います。実務でどのように扱うべきかまで落とし込んでくれている論文は決して多くありませんので。
いわゆる集合型の研修は組織社会化戦術のうちの文脈的戦術と内容的戦術に該当すると著者はしています。一次的成果につながっている内容的戦術とは、具体的には組織の全体像を示したりキャリア・パスのあり方を示すものです。こうした研修内容が、組織や人間関係についての学習を促したり、ロールモデルとのギャップから現在値としての自己理解を促すという効果があることがわかります。
他方で、自己理解が弱く職務パフォーマンスにつながっているものの、職務パフォーマンスや組織コミットメントに大きく影響してはいないこともわかります。職務パフォーマンスや組織コミットメントには、現場で行われるOJTなどの連続的戦術や、個別的に働きかける付与的戦術といった社会的戦術が、直接的にあるいは仕事の進め方の学習を媒介して影響していることがわかります。
もちろん、集合型の新人研修も大事な要素にはなるでしょう。しかし、新入社員の組織社会化をより効果的に促すものは現場での働きかけです。ポイントは、職場での学びを支援する体制を構築し、日常的に新人の状態性を把握して個別的な働きかけも行うということでしょう。
言い方を換えれば、「集合研修で学んだのになんでできないの?」といった集合研修万能幻想に基づく働きかけや、「学生で学んだことなんか現場では使えない。ゼロから学べ!」といった新人の個性を無視するかのような剥奪的社会化を行うのは不適切であるということを現場のマネジメントも人事も肝に銘じるべきでしょう。自戒を込めて。
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