【論文レビュー】キャリア・アダプタビリティとは何か。:Savickas(1997)
キャリアを学んでいれば、マーク・サビカスの名前を目にすることは多いでしょう。師匠であるドナルド・スーパーも高名ですし、サビカス自身も有名です。原著を読む機会はこれまでなかったのですが(小声)、キャリア・アダプタビリティを論じた本論文は、スーパーのキャリア理論を整理しながら論じられていて読み応え十分な内容でした。
Savickas, M. L. (1997). Career adaptability- An integrative construct for life‐span, life‐space theory. The career development quarterly, 45(3), 247-259.
スーパーのキャリア理論の整理
スーパーは、元々は特性論でキャリアを捉えており、それを基に職業適性のマッチングに活用するというアプローチを取っていました。これは、20世紀の前半や中ごろまでのアメリカでは普通のことだったのでしょう。
特性論では人を静的に捉えます。スーパーもこの捉え方をしていたのですが、次第に人のキャリアにおける変容に焦点を当てるようになり、キャリア開発/発達を重視するようになりました。すなわち、人のキャリアを動的に捉えるようになったわけです。
また、キャリアを捉える際に自己概念を強調し始めます。これは、キャリアを給与やポジションといった客観的なものとして捉える外的キャリアに対して、価値観や志向性といった内的キャリアを捉えるようになったことを意味しています。
さらには、キャリアを捉える際の対象についても変更を加えました。つまり、職業における文脈でキャリアを捉えるという以前の考え方から、職業キャリアは一つの側面に過ぎないと主張するようになりました。そうではなく、生活全般においてキャリアを捉えよ、という論を展開するようになったのです。
スーパーを踏まえてサビカスが提示したこと
本論文によれば、自分の理論はまだ統合的ではないとスーパー自身が考えており、その統合を図ろうとしながらも未完で亡くなってしまいます。この統合プロセスを継承した一人がサビカスです。
まず、スーパーが示唆していた学習行動と意思決定という二つがキャリア開発/発達プロセスのポイントであるという考え方を引き継ぎます。これは、キャリア成熟という静的なアプローチをキャリア・アダプタビリティという動的なアプローチへと移行させることになりました。
というのも、adaptationやadaptabilityに含まれる「apt」の語源は迅速な学びと理解であり、人の能動性がここには表れています。言い換えれば、マッチング・アプローチから学習アプローチへの変化であると考えられます。
転職にもキャリア・アダプタビリティの考え方が有効!?
キャリア・アダプタビリティが提示した「キャリアとは学習アプローチである」という考え方は、キャリアの転機の際、つまりは転職の時にも活きるものでしょう。中原先生がパーソル総研との転職に関する大規模調査を通じて著された『転職学』もこの文脈で捉えられるのかもしれません。
おまけ
原著を読んだことがない私でも、サビカスの理論を「ある程度は知っていた」理由は何かというと、日本語で書かれた素晴らしい解説本があるからです。私が購入したものからさらに版が変わったものが出ているようですので、英語があまり得意でない方向けに以下をご紹介します。