【読書メモ】名著『組織行動論の考え方・使い方』の解説がスゴイ!:『組織論の名著30』(高尾義明著)
私は書籍を1ページから読み始めるタイプであり、途中の章を先に読むことは滅多にありません。今回、高尾義明先生の『組織論の名著30』を読もうと目次を眺めた時に、第6章で服部泰宏先生の『組織行動論の考え方・使い方』が取り上げられているのを見つけました。同書を何度も愛読している身として、高尾先生がどのように解説されているかに興味が強く湧き、同書の解説からまず読んでみました。短い文章にもかかわらず、「このように読めるのか!」という気づきが随所に盛り込まれていて、改めて『組織行動論の考え方・使い方』を読み返そうという思いになりました。
本書の役割
まず導入部分では、本書がどのような役割を担う書籍であるかに関して端的に解説されています。
要約力って大事ですよね。このような短文で、書籍が果たす役割について解説できる力を身に付けたいものです。
概念を実務で用いるヒント
企業の実務においても、組織行動論の概念が用いられることはままあります。昨今だと、心理的安全性、ジョブ・クラフティング、ワーク・エンゲージメントなどは研究者でなくても目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
こうした概念を用いることは現場における事象の意味合いを理解するきっかけになり、また現場発で新たな概念が生まれるということもあります。
既存の組織行動論の概念を理解し、どのように現場に当てはめることができるのかを考えるためには、『組織行動論の考え方・使い方』の第2部がとても有効であると高尾先生は解説されています。実際、多くの概念を理解して頭に入っておくと、現場で起きている事象の背景を解釈し意味合いを推察するきっかけになることがあります。
共同のカギは視座の高さ!?
服部先生の書籍を読んでいた時にも、また本書を読んだ際にも関心を強く持ったのは研究者と実践者の共同に関する内容です。
いたく感銘を受けたので拡大解釈がすすんでしまいましたが、考えたことを書いてみます。
まず研究者側の観点について、卑近な例ですが、私が二つの修士時代に経験した企業の方々へのヒアリングを思い出しました。慶應の修士時代のヒアリングと、立教の修士時代のヒアリングとでは、私の研究者としてのレベル感はそれほど変わりません。変わったのは実践者としての経験に伴って視野が広がり事象に対して高い視座から捉えられるようになったという点です。そのため、慶應の時は「今ひとつ価値を出せなくて申し訳なかったな」という感覚を抱きましたが、立教でのヒアリングでは先方の全社方針に基づいた人材開発施策の中に位置付けられたという手応えを持て、今でも共同関係は続いています。つまり、研究者側が企業における事象へ高い視座から働きかけることで両者の共同は発展することが考えられます。
他方で、実践者の視座の高さも両者の共同には重要です。私が博士課程で学んでいるからか、研究知見について社内で尋ねられることがありますが、問われる相手の役割に応じてそのコミュニケーションの質は異なる傾向があります。仕事柄、人事や他部門の役員さんや部門長さんと人材開発施策の企画やコンテンツ開発のために打ち合わせをよく行いますが、彼(女)らの視座が極めて高いからか、私が提供する施策や知見がどのようにいきるのかを俯瞰で捉えておられ、バリューアップしながら円滑に共同できます。一方、そうでない方々の中には、研究知を費消するように一問一答形式で尋ねてこられることがあり、こちらが何を答えれば良いのか困り消化不良になってしまうことも残念ながらあります。
研究と実践との共同のプロセスにおいては抽象と具象とを行き来することになります。その際に、両者が向き合う事象に対して視座を高く持ち、その視座から事象を抽象化し、また現場に近いところに具体化するという往還プロセスを行えることが求められるのではないでしょうか。それが両者にとって、知っていることについて謙虚になる、ということなのではないかと思います。
おまけ
冒頭でも述べた通り、私は『組織行動論の考え方・使い方』を何度も通読しています。かつて、初版の各章についてまとめたことがあるので、ご関心がある方はご笑覧ください。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!