【読書メモ】類型論と特性論。:『大学生ミライの信頼性と妥当性の探究 ストーリーでわかる心理統計』(小塩真司著)
心理統計では人のパーソナリティを扱っているものが多くあります。このパーソナリティという言葉を直訳すると特性になるので、本書を読むまではパーソナリティ=特性と誤解していました。しかし、著者が解説してくれているように、心理統計におけるパーソナリティ研究は、特性論だけではなく類型論もあり、両者の特徴を踏まえる必要があります。
人を分ける類型論
類型論では、人をいくつかのグループに分けて、それぞれのグループの特徴を明らかにします。著者は、類型論の特徴を「人を分ける」と端的に述べています。
分析手法としては、クラスタ分析をイメージすればわかりやすいのではないでしょうか。因子分析との比較でクラスタ分析について以前のnoteで触れたことがあるので、ご関心のある方はご笑覧ください。
指標を分ける特性論
それに対して、特性論は「指標を分ける」ものであると著者はしています。つまり、人の中には多様な要素があるという考え方に基づき、その要素を把握するために指標を分けて捉えるというアプローチが特性論であると考えられるでしょう。
類型論と特性論
両者のアプローチの違いから、現場での適用は自ずと異なってきます。企業組織で全社的な視点で組織の状態性を把握するためによく用いられるのは類型論です。典型的には、エンゲージメントサーベイでの回答傾向によってタイプ分けを行い、〇〇タイプは前回からXX%増えたのに対して、△△タイプはYY%減少しているから、組織の健全性としてはうんぬんみたいな分析をコンサルさんはよくされます。
他方で、個人の多様な側面を細かく把握して今後の成長を支援しようとする場合には特性論で対応することが可能です。とはいえ、特性論は複雑かつ多様なものなので企業で適用するのは難しいと言えるでしょう。実際、採用現場において個人のアセスメントを行うことは多いものですが、結局使われているのは類型論で明らかになっている〇〇タイプだけということは多いです。タイプ分けはわかりやすいですから。
タイプ分けが悪いというつもりは毛頭ありませんし、忙しい環境においては適切な対応とも言えます。ただし、類型論では個人の内的な多様性を把握できないという制約に自覚的になることは大事なのではないでしょうか。