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【読書メモ】二要因理論から職務デザイン論を経てジョブ・クラフティングへ:『組織論の名著30』(高尾義明著)
高尾義明先生の『組織論の名著30』の第5章「組織におけるプロセスと人」では、『組織におけるあいまいさと決定』(マーチ&オルセン著)、『行動意思決定論』(ベイザーマン&ムーア著)、『仕事と人間性』(ハーズバーグ著)、『マネジャーの仕事』(ミンツバーグ著)、『静かなリーダーシップ』(バダラッコ著)、『企業のなかの男と女』(カンター著)の6冊が扱われています。個人的な興味関心から、ハーズバーグの『仕事と人間性』に焦点を絞って感想を書きます。
臨界事象法
ハーズバーグは、満足が生じる要因と不満足が生じる要因とは別次元であるとして、動機づけー衛生理論という二要因理論を提唱したことで有名です。この動機づけ要因と衛生要因とを明らかにした調査において取り入れたのが臨界事象法です。
具体的には並外れて良かった仕事経験と並外れて嫌だった仕事経験の二つを尋ねることによって、前者から動機づけ要因を、後者から衛生要因を導き出した、というのが分析手法と結果の考察と言えます。このような臨界事象法を用いたことが二要因理論という現代でもメジャーな考え方を提示できた背景にあり、他方でその分析手法が独特であることから批判される際のネックにもなっています。難しいものですね。
職務充実化
二要因理論を提唱したハーズバーグは、これを実務においてどのように活用するのかという実践的示唆について、職務充実化という具体的なソリューションとして提示しています。
二要因理論に基づいてハーズバーグは実務界に向けて職務充実化を提唱した。職務充実化とは、動機づけ要因を職務に反映することであり、従業員の仕事に対する責任を増やしたり、自然なまとまりが感じられる仕事のモジュールを与えたり、成長の機会になるような新しい仕事を導入したりすることである。
職務充実と対比的に用いられるのが職務拡大です。職務拡大では取り組む職務の領域を広げていくことによってモティベーションを高めることを狙う水平的拡大であるのに対して、職務充実は特定の職務を深掘りしたり専門性を高めるといった垂直的拡大を目指すものになります。高尾先生の解説によれば、当時のAT&Tなどで職務充実化が施策として導入され効果が検証されたとされています。
ジョブ・デザイン論からジョブ・クラフティングへ
二要因理論は、実務において職務充実に派生しただけではありません。その後にハックマン&オルダムの職務特性理論やレズニスキー&ダットンのジョブ・クラフティングへと発展的に受け継がれています。
組織研究においては、動機づけー衛生理論を踏まえて、仕事そのもののデザインを変化させることでワーク・モチベーションが高められるというジョブ・デザイン論が、その後確立された。代表的なジョブ・デザイン論の一つである職務特性モデルでは、自律性、スキル多様性、タスク完結性、タスク有意味性、フィードバックという五つの職務特性を抽出し、それらを高めるようなジョブ・デザインが従業員の内的なモチベーションを高めることが検証されている。さらに、近年では、従業員自らが自分の仕事をデザインするというジョブ・クラフティングという考え方も普及しつつある。
このような現代の組織行動論への流れまで解説されているのが本書のありがたいところです。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!