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【読書メモ】『状況に埋め込まれた学習ー正統的周辺参加』(ジーン・レイヴ&エティエンヌ・ウェンガー著)

新しい職場で初めての職務を担うときを思い浮かべてください。私たちは、上司や先輩から必要な知識やスキルを学ぶというよりも、職場における状況に参加することを通じて結果的に学ぶことが多いものです。こうした現場の複雑で多様な状況に埋め込まれた学習を正統的周辺参加(Legitimate Peripheral Participation: LPP)と著者たちは呼んでいます。

正統的周辺参加が否定したもの

従来の学習間では、知識は発見されたり、他者から伝達されたり、他者との相互作用で経験されたりすることによって知識が内化する過程を学習と見做していました。

正統的周辺参加は、知識をインプットするという考え方ではなく、実践共同体へ参加するというアウトプットを通じて結果的に学習がなされると考えます。いわば、参加によって自分自身を外化することであり、全人格を対象にしたものと著者たちはしています。

個人と共同体の変容

共同体で求められるものを個人が内化するという考え方は、個人が組織に適応して変容するという捉え方をしますが、正統的周辺参加はこうした捉え方を否定したと述べました。ということは、個人が変容するとともに共同体もまた変容するという捉え方をしています。

正統的周辺参加には概念的橋渡しが意図されているーーすなわち、変化する人格と変化する実践共同体の二つを生み出すことに内在する共通のプロセスについての主張なのである。正統的周辺参加を通して、知性的アイデンティティの生成と実践共同体の生成との間の関係を中心的に協調することで、持続する学習を、やり方は変っても実践共同体の構造的特徴を具体的に再生産することとして考えることが可能となる。(33頁)

個人が共同体に参加することは学習という観点で変化するだけではありません。多様な他者との交流、組織との相互作用といったプロセスを通じて「知の営みはアイデンティティの成長と変容に本質的に伴うもの」(109頁)なのです。学習を個人に閉じたものではなく、個人と共同体とのダイナミックな相互作用に拡大させた点こそが、正統的周辺参加のもたらしたものなのではないでしょうか。


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