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【読書メモ】対話的自己論とは何か?:『自己形成の心理学』(溝上慎一著)
溝上慎一先生の『自己形成の心理学』、大変おもしろかったです!今回は名残惜しくも最終章を読んで興味深かった自己論についての溝上先生の考察についてまとめていきます。
対話的自己論以前
まず、溝上先生が依拠されている対話的自己論が登場する以前の自己論について以下のようにまとめておられます。「大胆に」まとめたという点が、後から学ぶ者としては大変ありがたいです。
これまでのほとんどの自己研究者が依拠していたジェームズ以来の自己論は、大胆にまとめてしまえば、自我/全体的自己の一極集中性を前提としていた。デカルトのコギトがそうであるし、ジェームズの自己論も、「物質的自己」「社会的自己」「精神的自己」に見られるように要素還元主義の自己論であった
自己論は要素還元主義に基づくものであった、というのが溝上先生がまとめてくださった要諦です。
対話的自己論の意義
要素還元主義的であった自己論に対する概念として生まれたのが対話的自己論です。
しかし、対話的自己論は自我が一極集中的に自己世界を形成しているとは考えない。したがって、全体的自己の要素還元主義も否定する。
要素還元主義を否定し、他者や社会に対してオープンで多様な自己のあり方を提示するものであると言えます。
現代にいきる対話的自己論
ではなぜ今、対話的自己論が求められるのでしょうか。そこには社会の変化があると著者は述べておられます。
こうした状況は、役割観や個人の価値観が強くなってきている、より現代的な社会で頻繁に生じている。人は個別領域ごとに「私」を形成するのであって、それらがある局面に際して葛藤を起こせば、その「私」群を調整する作業に迫られる。
現代において、私たちが参画する社会は多岐にわたるようになっていますし、その社会も変化します。こうした多様でダイナミックな社会の中で形成する多様な自己を捉えるためには、要素還元主義的な自己論ではなく対話的自己論が求められる、というわけです。
McAdams登場!
ここまででまとめを終えても良いのですが、最後に胸熱だった点を余談的に。
アイデンティティ形成を物語論で読み替えたことで知られるD・P・マクアダムス
研究の関係でサビカス先生の論文をよく読み直すのですが、よーく登場する研究者の一人にMcAdamsさんがいます。対話的自己論の流れで物語論によるアイデンティティ形成を述べた人物としてMcAdamsさんが述べられていることで、こういう系譜なのねということを学べました。ありがたや。