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【論文レビュー】職業選択からキャリア(職業)発達への転換:Super (1953)
先日のnoteではSuperの1954年の論文を足掛りにして、キャリアという概念が現代の私たちが使う意味合いとして使われるようになった頃の内容をまとめました。今回は、その論文からさらに一年前のSuperの論文を読んでみます。こちらの論文は、先日のものと比較して被引用件数が十倍以上多いのでどうやらメジャーな論文のようです。
Super, D. E. (1953). A theory of vocational development. American Psychologist, 8, 185-190.
対抗理論はGinzbergの職業選択理論!?
Superとほぼ同世代(一歳差)で職業選択理論(theory of occupational choice)を提唱したのがGinzbergです。本論文では、この職業選択理論について4点のポイントを解説するところから始まっています。
職業選択は10年以上かかる発達的プロセスである
そのプロセスは非可逆的なものである
職業選択プロセスは、関心、能力、価値観や機会の間における妥協によって終了する
職業選択には、①空想期(11歳まで)、②試行期(11-17歳まで)、③現実期(17歳以上)という3つの期間が存在する
意訳せず忠実に訳したつもりですが、気になる方は原文のp.185-186をご参照ください。
職業選択理論の限界
このようなポイントを持っているGinzbergの職業選択理論について、Superは4つの理論的な限界があるのではないでしょうか、と以下のように指摘しています。
性質、発達、価値観や関心といった領域の先行研究を軽視して理論構築していませんかね!?
(職業の)「選択」を好みとして定義しているけど、年齢や段階が異なればその意味合いは変わってきませんか!?
(職業の)「選択」という言葉を多様な年齢において用いていますが、「選択」ではなく「調整」とすべきですよね!?
職業選択とは「関心、能力、価値観や機会の間における妥協」と言ってますけどその選択のプロセスそのものを提示していませんよね!?
職業発達理論
こうしてGinzbergの職業選択理論の限界を指摘した上で、①選択ではなくて発達である、②一時点における静的なものではなく動的(ダイナミック)なプロセスである、として職業発達理論をSuperは提唱しています。その上で10個の仮説を提示して締めくくっています。多すぎるのでキャリアに関連するものを中心にして勝手ながら要約すると以下の5つのポイントに集約できそうです。
人は能力、関心、パーソナリティによって異なる存在であり、それらは職業に対応する特徴によって資格づけられるものでもある
自己という概念は時と経験によって変化するものであり、そのため選択と調整は持続的なプロセスである
キャリア・パターンは、個人が経験することだけではなく個人の親の状況によって決まるものである
人生の段階を通じた発達は導くことができるものであり、職業発達のプロセスは自己概念を発達させ実現させるものである
個人的要因と社会的要因の間や自己概念と現実の間で生じる妥協のプロセスは、役割を演じることの一つの形態である
サビカス先生も後の論文で二桁の数の仮説を提示しているのですが、Superの影響なのでしょうね。ちょっと多すぎませんかね。笑
キャリア・パターンという考え方
キャリア論の大家である渡辺三枝子先生の『キャリアの心理学』では、キャリアという概念に関するさまざまな定義を集約すると、①人と環境との相互作用の結果、②時間的流れ、③空間的広がり、④個別性という4つのキーワードが共通しているとしています。詳しくは以下のnoteまとめをご笑覧ください。
Superは本論文や先日の論文でcareer pattern(キャリア・パターン)という言葉を多用しています。現代においては、キャリアという概念に②時間的流れが内包されているために、パターンという言葉を加えると重複表現のように感じます。
おそらく、Superがキャリアという言葉を用いるようになった1950年代頃においては、occupationやvocationといったある時点において従事している職業への意識が強かったため、個人が働く時間的流れという意味合いを強調するためにcareerにpatternという言葉を加えたのではないでしょうか。その上で、キャリアという概念が定着していく中でパターンの方は徐々に削られるようになった、ということなのかもしれません。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!