【論文レビュー】海外赴任から帰任した後の組織再社会化はどのようになされるのか?:内藤(2011)
グローバル人事を2年ほど担当したことがあります。海外赴任者とのやりとりを日常的に行い、勤怠や海外地域給の観点で労組とも打ち合わせ、また現地法人側のグローバル人事担当者と連携しながら業務を行い、制度を改定していく、というような業務役割でした。というような経験をしていたからか、海外勤務から帰任した社員に焦点を当てて組織再社会化で組織適応が促される関係性を明らかにした本論文は大変興味深い内容でした。
海外赴任と海外出張
本論文の調査対象者は過去に6ヶ月以上海外赴任した経験があり、調査時点で日本法人に勤務している従業員です。海外人事をやっていると耳タコ状態になるのですが、海外赴任と海外出張の違いについてザックリとだけ書いておきます。
海外赴任とは、本国での法人との雇用契約ではなく現地法人との雇用契約に基づいて勤務する形態のことを指します。他方の海外出張では、本国での法人との雇用契約に基づいて、現地法人に滞在して業務を遂行します。いわゆる183日ルールについてセンシティヴになるのが海外出張ですね。
人事管理的に言えば、MBOの評価者としては、前者は現地法人の上司であるのに対して、後者は本国法人の上司です。つまり、海外赴任先から本国法人に帰任するということは、雇用契約の法人の主体が変わることであり転職であることを意味し、とはいえ同じ法人グループ内での移動なので異動と近い心理的な意味合いを持つもの、と言えるでしょう。
帰任を組織社会化で捉える
このような雇用契約の変更と心理的な変化を内包する帰任というプロセスに対して、転職や異動で用いられる組織再社会化という概念を用いて実証研究したのが本論文の興味深い点です。ややマニアックな言い方になりますが、この枠組みの基底理論として組織社会化段階理論を用いています。
帰任前後の情報入手行為と組織適応
結論としては、帰任者の帰任後における組織適応を促すために、業務に必要な情報を帰任前と帰任後においていかに入手できるかが鍵であることが実証されています。具体的には以下の図をご覧ください。
帰任前の情報入手行為は期待ギャップの減少を媒介して組織適応へと間接的に影響を与え、帰任後の情報入手行為は直接的に組織適応へとポジティヴに影響を与えることが明らかになっています。海外赴任からの帰任という、ニッチだけれど重要な領域に焦点を当てて興味深い知見を提供してくれた論文と言えます。
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