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理念浸透は上司を通じて行うべし!?:『経営理念の浸透』(高尾義明・王英燕著)を読んで。

理念経営で有名な企業に勤めていると、理念に共感し、行動に移すことは当たり前と感じてしまいます。しかし、これまで勤めていた企業では必ずしもそうではありませんでしたし、大学院で関与させていただいる組織でも理念浸透に課題感を持って取り組まれています。

最近、考えさせられるのは、理念が浸透するプロセスとはなにか、です。理念浸透に関する学術書の定番とも言われる本書を改めて紐解いてみます。

理念浸透の三次元

本書の特徴的な点は、n数が2,000名を超えるという豊富な社員データによって検証されている点であり、また企業群も理念志向的企業だけではなく一般的な企業でも行われているという点でしょう。こうした母集団での因子分析の結果として、(1)情緒的共感、(2)認知的理解、(3)行動的関与という三つの次元が見出されました。

また重回帰分析を行った結果、(1)情緒的共感と(2)認知的理解の両者が(3)行動的関与に影響を直接的に与えているということがわかりました。つまり、理念を行動に移すためには、その理念に対しての共感度合いをあげて、内容の理解を促すことが重要である、という実践家への示唆があると言えるでしょう。

上司の関与が理念浸透を促す

従来の研究結果やビジネス書で喧伝されていたことは、企業のトップによる理念の落とし込みが大事であると言われていました。本書での研究でも経営者による関与がある程度は有効であることは言われています。

しかし、多様な主体がどの程度経営理念の浸透に影響を与えているかを分析したところ、全企業において上司による関与が働く個人の理念浸透の三次元の全てに正の関係を与えていたことがわかりました。

つまり、企業のトップや人事部門が理念浸透のプログラムを行うことの効果は限定的であり、いかにして上司がメンバーに対して理念を語り理念の実践を促すかが大事であるということです。人事部門は、全社員への理念浸透のプログラムにするのではなく、マネジャー層に対してメンバーへの理念対話を支援することが有効なのかもしれませんね。

組織の視点と個人の視点とを繋げた点が画期的

本書が画期的であったのは、理念浸透という現象を組織と個人の二つの観点から統合したところにあります。

われわれの研究のきっかけの1つは、経営理念の浸透に際して組織を「一枚岩」として扱うことに疑問を感じ、個人の視点から経営理念の浸透を解明する必要性を認識したことにある。(5頁)

著者たちを研究へと誘った想いが、見事に結実している興味深い研究です。

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