【読書メモ】変化の時代のキャリア理論(1/9):M・サビカス著『サビカス キャリア・カウンセリング理論』(第1章)
本書はマーク・サビカスが自身のキャリア構成理論を解説しつつ、現場におけるクライエントへのキャリア・カウンセリングを詳しく語ってくれている素敵な一冊です。第1章では、なぜ現代においてキャリア構成理論を彼が提示したのか、それを下敷きにしたキャリア・カウンセリングがなぜ求められるのか、について概説されています。
仕事の変化
仕事は常に変化するものではありますが、ディジタル化は「長期の仕事を短期のプロジェクトに変化させた」(11頁)と著者は喝破しています。人は、仕事を通じて日々の生活を送り、キャリアをすすめるわけですから、組織における仕事が変わるのであれば、私たちもまたそれに対応する必要があります。
組織が長期的な仕事ではなく短期的なプロジェクトを完結させる人材を求めるのであれば、私たちは、短期的なプロジェクトを遂行するできる人材としてエンプロイヤビリティを高めながら、それとともに長期的なライフキャリアをデザインすることが求められると言えるのです。
変化の時代におけるキャリア理論
働く個人にとってのキャリア理論は、「個人を職業にマッチングさせるパーソンズのモデル」(12頁)を基にした個人ー環境理論としてのホランドの職業選択理論がその嚆矢と言えます。これに、個人の典型的な人生の発達を基にしたスーパーの職業発達理論とが相まって、企業における安定的なキャリアにどのように対応するかがこれまでは問われてきました。
仕事を取り巻く環境が安定的で、個人のキャリアも安定的であればこうしたマッチング型のアプローチのみで対応できるわけですが、現代の企業や職務は非連続的で変化が激しいというのは冒頭で述べたとおりです。こうした時代におけるキャリア論のキーワードが①変幻自在(protean)と②境界がないこと(boundaryless)の二つであるとしています。キャリア理論に詳しい方であれば、①がHallで②はAuthurであるといえばよりわかりやすいでしょう。
サビカスのキャリア構成理論
変幻自在や境界がないことといったキーワードを踏まえながら、サビカスのキャリア構成理論ではキャリアというものを生成的なものとして社会構成主義的に捉える点が特徴です。人の人生が個別化する現状を捉えて、端的に「自己の構成は一生を通じたプロジェクト」(23頁)というアナロジーで表現しています。
ライフキャリアにおける変化を所与として、どのように個人が対応するかに焦点を当てたものがキャリア構成理論であり、それに基づいたキャリア・カウンセリングを以降の章でサビカスは語るようです。
あとがき
本書に関するamazon様のレビューでは「翻訳が…」や「日本語が…」などと訳文の巧拙に関する批判的なものが多く書かれています。執行会議等の会議資料を英⇄日に翻訳することが多い身としては、「このレベルまで訳せていれば御の字もいいところでしょ!」と思ってしまいます。硬い表現だなぁと思うところは個人で解釈すればいいわけですし。サビカスのキャリア構成理論を学ぶ第一歩として、和文のテクストがあることのありがたさを噛み締めております。