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【読書メモ】論文の結論パートの役割とは何か?:『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大著)

阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の第8章は「結論する」というタイトルで、その名の通り、論文の結論パートについて書かれています。査読論文を書く際、学会誌の方針にも拠るのですが、私が投稿した学会誌では冒頭に要約を書いて最後に結論を書く、という形式になっていました。違和感は全くなかったのですが、実際に論文を通しで書いてみると、「あれ、要約と結論ってどういう関係性なんだっけ?」と疑問に思った記憶があります。論文における結論パートの役割とはなんでしょうか?

結論と要約は異なる!

まず著者は、「結論とは議論の要約ではない。」(p.157)とバッサリ否定から入ります。ここまで断定していただけると心地よいですね。私が論文を書き始めた頃の悩みはなんだったんだというわけですが、結論とは何かを考えあぐねておぼろげながらうっすらと理解した輪郭とは符合しています。

結論パートの意義

では改めて、論文における結論はどのような役割を担っているパートなのでしょうか。

結論は、論文の内部にありながら論文を超越するようななにかを埋めこむことができる可能性のある唯一のセクションである。

p.157

この箇所、特に現場での実践経験を基にして修論などのレポートを書こうとする社会人学生にとって、朗報と言えないでしょうか。

初めて学位論文を書いたとき、自分が企業での勤務経験で感じたことを書けるパートはほとんどないのだなと感じました。それはそういうものだからしかたないといえばそれまでなのですが、どこかで書けないものかと思うものですよね(私だけ?)。そこで諸先輩の修論を読み漁っていくと、実践的意義として書けると言えば書けることを知ってうれしく思った遠い記憶があります。

それでも実践的意義とは、理論面での貢献(理論的意義)に基づいて、実践場の場面でどのように適用できそうか、ということを書くのでまだ抑制的です。論文全体での議論を踏まえた内容を踏まえた今後の展望や、大きな絵姿を書いても許されるのが結論パートなのです。主張や思いが強かったり、ビジョナリーな方にとっては、結論パートはありがたい箇所かもしれません。

先行研究の際の注意点


このような結論パートの特徴を踏まえれば、書き手ではなく読み手の立場、すなわち先行研究をする上での結論パートの取り扱いには注意が必要になることがわかります。

わたしが基本的に本文からのアーギュメント抽出はコンクルージョンよりもイントロダクションから行うように薦めている理由も、これでわかってもらえると思う。コンクルージョンから探すと、本文のアーギュメントよりも大きなアーギュメントを抜いてしまう可能性があるわけだ。

p.165


結論パートは、本文での議論を踏まえての将来展望が描かれることがあり、本文の要約ではありません。したがって、結論パートを基にしてその論文の趣旨として引用してしまうと、「この論文を本当に読んだのですか?趣旨が違いますよ?」という査読での指摘を受けることになるのです。

著者が他の章でも述べておられるように、引用する際には要約パートを中心に行うのが間違いないのでしょう。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!


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