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【論文レビュー】新卒入社後数年のフォローはどうすれば良いのか?:尾形(2015)
たまには趣向を変えて、大学院でどんなレポートを書いているのかをご紹介します。以下は、先週に私が提出したレジュメです。いつもの文体よりもさらにお堅い感じですが、雰囲気をお楽しみくださいませ。(めんどうだから直さないだけだったりしますが。)
1. 書誌情報
尾形真実哉. (2015). 若年ホワイトカラーの適応タイプと適応プロセスの多様性に関する実証研究: 量的調査と質的調査の混合研究法による分析から. 甲南経営研究, 55(3), 21-66.
2. 著者紹介
甲南大学 経営学部 教授
3. 要旨
本論文では、「若年ホワイトカラー」と一括りに捉えて企業として対応策を講じるのではなく、入社一年目・二年目・三年目のそれぞれの適応課題とプロセスの多様性について明らかにしている。クラスタ分析によって適応タイプを明らかにすることで年次固有の課題を明確にし、インタビュー調査によって各年次において課題を乗り越えるプロセスを言語化している。
4. キーワード
組織適応、適応課題、適応プロセス
5. 目次
(1) 本稿の目的
(2) 先行研究の検討
(3) 調査対象と調査方法
(4) 分析結果
(5) 考察
(6) 参考文献
6. 内容の要約
6-1. 定義
6-1-1. 適応
個人が環境に合うように自らの身体や行動を変容させること、またはその状態をいい、外界に働きかけたり、外界からの要求に順応したりする行動的・態度的側面や内面的な活動による心理的側面の双方が含まれる概念(中島他編, 1999, 607頁)
6-1-2. 組織社会化
新しいメンバーが、組織やグループの価値システムや規範、要求されている行動パターンを学び、適合していくプロセス(Schein, 1968)
6-2. リサーチ・クエスチョン
本論文では以下の三つが挙げられている。
研究課題1:若年ホワイトカラーの組織適応のタイプにはどのような種類があるのか。
研究課題2:分類された適応タイプを勤続年数別にみると、どのような特徴があるのか。
研究課題3:なぜ適応タイプに多様性が生じるのか。そのような多様性が生じるメカニズムはどのようなものか。
6-3. 研究手法
本論文では、質問票調査とインタビュー調査の二つの調査方法が用いられており、すなわち混合研究法の研究である。量的データを収集して分析した結果を基に、質的データを収集・分析することで深掘りを図るアプローチであることから説明的順次的デザインの混合研究法と言える。
6-3-1. 質問票調査
異なる企業の入社1年目から3年目までの大卒新規学卒者員計227名が対象。
6-3-2. 質的パネル調査(インタビュー調査)
入社1年目に合計16名を対象として開始し、入社3年目まで継続して実施できた対象は8名。
6-4. 結果
6-4-1. 因子分析の結果
質問票調査から因子分析を行うことで、組織適応を測定する変数が四つの因子として分類された。
第1因子は「情緒的コミットメント」、第2因子は「文化的社会化」、第3因子は「職業的社会化」、第4因子は「離職意思」としてそれぞれ名付けられた。
6-4-2. クラスタ分析の結果
因子分析の結果である四つの変数を用いたクラスタ分析を行い、適応タイプが四つに分類された。この結果、【研究課題1】が明らかになった。
6-4-3. クラスタの勤続年数による割合比較
各クラスタの勤続年数による割合の比較をプロットしたものが下表である。【研究課題2】として挙げられていた年次ごとに特徴的な適応タイプの相違が明らかにされた。
6-4-4. 質的パネルデータを用いたインタビュー調査
各クラスタの入社年次ごとの適応プロセスに関するインタビュー調査の結果として、勤続年数や適応タイプごとにおけるプロセスの特徴が明らかになり、これは【研究課題3】に該当する。
7. 論文に関する意見やディスカッション・ポイント
まず興味深いと感じた点は、量的調査からクラスタ分析によって組織適応のタイプを分類し、入社年次と掛け合わせた上でそれぞれの年次の社員に対するインタビュー調査からプロセスを可視化しているという混合研究法そのものにある。量的調査による仮説の検証と、質的調査による探索的なプロセスの提示というアプローチによって、若年ホワイトカラーの複雑で多様なタイプが明らかになると同時に、それぞれのタイプの内的なプロセスを可視化することができている。