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企業と社員の書かれざる契約とは何か。:『日本企業の心理的契約』(服部泰宏著)を読んで。
転職を繰り返していると気づくことがあります(威張って言うことではありません)。それは、企業が採用時に提示するJD(職務記述書)は適当なのだなということです。これは、外資であれ内資であれ大して差はありません。
僕はこのことに嫌な感じは受けません。採用実務を担っていた身からするとしかたないよなと思ってしまうからです。では、書面に書かれていない内容を社員はどのように受け止めるのでしょうか。この疑問に対して、心理的契約という概念によって日本企業の実態を実証的に紐解いたのが本書です。
心理的契約とは何か
組織参入前の時点での書面上での契約は、雇用関係という法的な関係の締結における必要条件を満たすものです。もちろん組織社会化の観点で捉えれば、RJP(Realistic Job Preview)を重視して入社後のリアリティ・ショックを防ぐことが重要であり、書面以外の手段でケアすることが有効ですが、心理的契約はこの概念とは射程が異なることをご承知おきください。
心理的契約は、「雇用関係開始後のプロセスに主たる関心をおく」(19頁)ものであり、書面には現れない内容も含めて「相互期待の総体をもって、「契約」とみなす点に特徴がある」(18頁)と著者はしています。
拘束力と調整
面白いのは、書かれていない契約であるにもかかわらず、心理的契約は企業と社員の双方に対して拘束力を持つという点です。たとえば、採用マネジャーは、「これくらい対応してくれて当然だろう」と中途入社社員の職務を暗黙的に規定しますし、社員側も「会社は〇〇をしてくれるべきだ」と捉えます。お互いが言葉に出すことなく、また事前に書面で合意することもなく、心理的に履行への拘束力を持つわけです。
しかし、書かれていない契約である以上、お互いがお互いに対して書かれない期待を調整していくことが現実的には求められます。つまり、曖昧な書かれない約束は相互に調整を繰り返していく中でお互いへの期待を徐々に更新していくことになります。具体的には、期待値を下げるか、現状認識を上げるかを行うわけですが、この調整が機能不全に陥ると社員は離職してしまうかもしれません。
不文律の拘束力と、その曖昧な調整プロセスは、転職経験者の肌感覚にも合うのではないでしょうか。
企業によって心理的契約が異なる側面も
本書の理論面での貢献は、先行研究では企業を超えた組織調査によって心理的契約の実証研究を行って示唆を出していたのに対して、企業が異なれば何をもって心理的な契約であるとみなすかの知覚が異なる可能性があるという点を実証的に明らかにしたことです。心理的契約の持つ企業特殊性に対する留意点が明らかになったと考えるべきでしょう。