遂に映画館入場料が一般で2000円に…
遂に映画館の一般料金が2000円になってしまった。6月1日時点では値上げして大台に達しているのは業界最大手のTOHOシネマズ(東宝)のみだが、シネコンが普及する以前から東宝が値上げすれば横並びで他社も追随するのがお約束になっている。
現に東映系のバルト9やティ・ジョイなどは6月16日から、ピカデリーやMOVIXなど松竹系は6月30日から、109シネマズなど東急系は7月7日から2000円に値上げすると発表している。
邦画大手3社とそれに準じる東急以外のいわゆる独立系のチェーンでもこの動きは加速していくと思う。
シネマサンシャインは一般料金の値上げはまだ発表していないようだが、3DやIMAXなどの付加価値上映フォーマットでは既に4月から5月にかけて値上げを実施している。おそらく、一般料金も近いうちに値上げされるのではないだろうか。ユナイテッド・シネマもこれまでのケースを見ると遅かれ早かれ値上げすると思われる。
ミニシアターも過去の事例を見ればほとんどの劇場が追随するのは間違いないだろう。
独立系も含めた大手シネコンでTOHOシネマズが前回2019年に1900円に値上げした時に追随せず、いまだに1800円としているのはイオンシネマだけだが、さすがに今回は値上げするような気がする。他社と合わせて一気に2000円にするのか、100円という値上げ幅だけ合わせて1900円にするのかは分からないけれどね。
それにしても、ビールや携帯などもそうだけれどトップ3〜4社くらいでほとんどのシェアを占めている業界って、本当、シェアが低い企業も含めて横並びで値段が決められることが多いよね。呆れてしまう。ビールはアサヒが値上げすると他社が追随するけれど、映画館の場合は東宝が値上げすると他社が追随するって感じかな。
映画館が前回、2019年に値上げした時は人件費高騰を理由に値上げしたみたいなことを言っていたと記憶している。
でも、TOHOシネマズは支配人候補でもバイトに毛の生えたような給料の求人広告を出していたし、MOVIXは売店を機械でオーダーするシステムに変えていた。つまり、人件費高騰を理由にした値上げなんて明らかにウソだというのが映画館に頻繁に足を運んでいる者にはすぐに分かってしまうものだったので、批判的な声が多かった。
今回の値上げはインフレや原料高を理由にしている。これにはここ数年の新型コロナやチャイナリスク、ウクライナ情勢などが背景にあり、世界中で共通して抱えている問題だから、値上げしても文句を言いにくい雰囲気はある。というか、映画館やアミューズメント施設のみならず、食品や日用品などあらゆるモノの物価が世界中で上がっている。
そして、人件費はどんどん削られ、コンビニやスーパーでは人員削減のためにレジがセルフやセミセルフに置き換えられている。コンビニの定番サービスだった弁当のあたためですら、客が自分でやるようになっている店があるくらいだ。
映画館だって、この4年間、サービスは全然良くなっていない。
日本の映画館は世界の主要マーケットでは最もはやくコロナ禍の影響から脱したマーケットと言っていいと思う。何しろ、2020年10月というまだコロナ禍になって半年くらいしか経っていない時期に公開された「劇場版 鬼滅の刃」が興収400億円を突破したくらいだからね。
米国の映画館が去年公開の「トップガン マーヴェリック」でやっと本格的に復調できたのに比べれば驚くほどの回復力だ。
それなのに、サービスが良くなっていないというのは、儲けが少ないということなんだろうと思う。特典商法でアニメ映画の上映には大勢の観客が詰め掛けているが、その特典に金をかけているせいで利益が出ていないのではないか?東宝・東映・松竹の邦画大手3社はいずれも、配給会社であり制作会社であり興行会社でもある。つまり、自社配給のアニメ映画が自社のシネコンでヒットしても、配布した特典にかかった費用を考えると、それほどボロ儲けできてはいないということなのではないだろうか?
コロナ禍になってからも記録的な大ヒット作品がアニメ作品を中心に毎年出ているのに、サービスは低下し、入場料も値上げとなる理由はそれが大きいのではないだろうか。世界的なインフレ、原料高を理由にすれば批判されにくいから、それを利用しているだけに見える。
よく、映画館ファンと名乗る連中、特にネット民には、割引料金のムビチケ(前売券)を購入しているとか、レイトショーとかファーストデイのような割引料金適用の上映しか見ないとか、有料会員になって割引料金で入場しているから、入場料が値上げされても関係ないと主張する勢力がいる。
でも、一般的な社会人ならムビチケなんて怖くて買えないよね。シネコン時代になり、公開初週の観客動員数が悪ければ2週目の上映回数は一気に減らされる。というか、ムビチケの売り上げが悪ければ既に初週の時点で上映回数は少ない。昔ながらの映画館なら余程のことがない限り、最低でもフルタイムで2週間は上映されていたから何とか前売券を買っても消化できたけれど、今のシネコンのシステムでは難しい。
また、夜勤や早朝出社がある人はレイトショー割引なんて利用できないし、普通に日中働いている人は平日になることが多いファーストデイのサービス料金なんて利用できない。
あと、個人的には会費を払って割引料金で入場するという矛盾した行動が理解できない。まぁ、ある回数を超えると会費分の割引をしてもらったことになるから、実質無料と考えているんだろうが。
そんなわけで、普通にフルタイムで仕事をしている人間は定価で鑑賞せざるを得ないのが実情だ。ネット予約だとクーポンとか打ち込むのも面倒だしね。
それから、こうした定価で見ないと主張する人と同様に多いのが海外に比べて日本の映画館の入場料は高いという意見を述べる勢力だ。
これもステレオタイプな知識で言っているだけだと思う。
自分は今から19年も前にみちのくならぬニューヨークひとり旅をしたことがあったが、ニューヨークの映画館の入場料はその当時で日本とほとんど変わらなかった。地方に行けば安いのだろうし、ニューヨークのような大都市でも閑散期とか時間帯では割引料金になっているのかも知れないが、少なくとも滞在中に自分が行った映画館ではほとんど日本と変わらないという印象だった。ポップコーンがレギュラーサイズもラージサイズも同じ値段で、スタッフが“ラージにできるけれどレギュラーでいいの?”みたいに聞いてきたのはちょっと衝撃だったけれどね。
そして、当然ながら海外の映画館だって値上げはしているだろうし、最近は円安基調だから、円に換算すると日本よりも高くなっているケースの方が多いんじゃないかと思う。
割引料金適用の上映を利用しろと言う人も、海外に比べて日本の映画館は高いから値上げするなと言っている人も、どちらも世の中を知らなさすぎるってことかな。
ちなみに自分が1人でも平気で映画館に行けるようになったのは小学6年生の頃(80年代半ば)だが、この時の一般料金は1500円だった。小人料金は東宝系が1000円、松竹東急系が900円だったような気がする。
そして、90年代に入ってすぐくらいに一般料金は1600円になったのかな?この頃は親と映画館に行くこともなかったし、自分は学生料金だったから1600円が相場になった時期を正確には思い出せないが…。
その後、大作洋画で一般1800円という料金制度が導入され、1993年頃にはほぼ全国でこの入場料が定着した。記録的な大ヒットとなった「ジュラシック・パーク」で儲けようという便乗値上げだったのかな?
以降、一部の超大作で割増料金が導入されたり、IMAXや3Dなどといった特殊な上映システムでは追加料金を徴収されたりもした。その一方で90年代以降は毎月1日が多くの劇場で割引デーになるなど割引料金になる上映日や上映回も増えていったが、基本料金は長いこと1800円のままだった。
まだ、ほとんどの人がバブルの感覚を引きずっていた92〜93年の頃も、円高だった90年代半ばも、非正規が増えた2000年代も、一部の者だけが恩恵に預かれた2010年代前半のアベノミクスの時も変わらず1800円だったし、食品のように価格そのままのステルス値上げもしてこなかったのは、値上げすると客離れが起こると思っていたからだろう。
しかし、映画館、特にシネコンは2010年代後半になってから明らかに映画ファンを軽視するようになった。つまり、毎週のように映画館にやって来てくれる熱心な映画ファンではなく、年に数回、デートで映画館にやってくる人たちを優遇するという方針にシフトしていった。
毎週1本映画館で見る人にとっては100円の値上げは年間5000円も出費が増えることになるが、年に数回のカップルなら1人あたり数百円と誤差の範囲だから、こういう人たちにとっては値上げは全然気にならない。
しかも、毎週映画館で映画を見る人はドリンクやフードをほとんど買わないし、パンフレットやグッズだって滅多に買わない。でも、年に数回しかやって来ない人はカップルで来れば2人分、4人家族で来れば4人分のドリンクを買ってくれる。
だから、ターゲットを非オタにしたということなのだろう。その分かりやすい例がコロナ禍に入るちょっと前にTOHOシネマズで流れていたPOP & COKEという売店でポップコーンとコーラを買えと促すCMだ。
このCMには多くの映画ファンが腹を立てた。それは、カップルの女の方が上映中に男の方にポップコーンとコーラを買ってきてと頼み、男が鑑賞中の他の客の視界を遮って売店に向かう場面があったからだ。
映画ファンが嫌がる迷惑行為は多数あるが、個人的に一番腹が立つのは上映中に自分の目の前を通り過ぎていく行為だ。さすがにスクリーンの100%がそれで見えなくなることはないけれど、座席によっては半分以上はその迷惑客に覆われてしまうことだってある。
そうした迷惑行為を映画館側が推奨するなんてありえないからね。
つまり、このCMを流したということは、映画を見るためだけに映画館に来る奴は客ではない、きちんと映画を見なくてもドリンクやフードを買ってくれる者が観客だとTOHOシネマズが宣言したということだ。
だから、2019年にしろ今回にしろ、コアな映画ファンなんか無視して値上げしようとなったのだと思う。
そして、コロナ禍に入りヒットする映画は特典を配布する商法で何度も同じ作品を見させるアニメ映画や、ドルビーシネマやIMAXなど追加料金が発生する特殊上映で人気を集める作品に集中するようになった。
シネフィルのような人種は同じ映画を10回見るなら、10作品を1回ずつ見た方がいいと思うが、特定の作品を繰り返し見る人にはシネフィルでない者が多い。つまり、シネフィルでないということはドリンクやフードを買ってくれるし、映画そのものではなく、その作品のファンだから入場料が高くても金を出してくれる。
今回の値上げは2019年に続くシネフィル排除の第二段階的なもののように思えて仕方ない。
ちなみにここ最近、自分は年間150本ペースで鑑賞しているから、単純計算すると年間1万5000円の出費増となる。まぁ、イベント上映作品には入場料が安い作品もあるし、ファーストデイなどの割引料金で見ることもたまにはあるから、実際はそこまでの負担増にはならないけれどね。
でも、最近の映画ファンを蔑ろにするような映画館のやり方は好きになれないな…。
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