屋根裏のラジャー
本作はスタジオジブリから“暖簾分け”したスタジオポノックにとって、「メアリと魔女の花」(2017)以来6年ぶり2作目となる長編作品だ。
前作公開時はジブリが閉店休業状態だった。この時点での最新作であった「レッドタートル ある島の物語」(2016)は海外との合作によるアート作品だったし、2014年には制作部門の休止も発表されていたので、世間がジブリっぽい雰囲気の作品に飢えていたという時流にうまく乗り、言い方は悪いが、亜流の同作はヒットに結びついた面もあったと思う。
しかし、本作の興行成績はイマイチだ。相変わらずジブリっぽいけれど、ちょっと違うといった路線の作品であるにもかかわらずだ。
ジブリは去年、巨匠・宮﨑駿10年ぶりの長編となる「君たちはどう生きるか」を発表したが、同作は10〜20代に訴求する作品になったとは到底思えない。その一方で、2010年代初頭までに発表されたジブリ作品は「金曜ロードショー」で放送されるたびに10〜20代の若者の間でも話題になる。
つまり、若者は過去のジブリ作品は見るが、本流だろうと亜流だろうとジブリ的な新作は求めなくなっているということだ。
別の言い方をすれば、SNSをやりながらテレビで見て、過去に見た時のことを思い出しながら誰かと話題を共有するためだけのものになっているということだ。
そんなわけで空席の目立つ劇場で本作を鑑賞した。
子どもが成長し、空想の友達=イマジナリー・フレンド(作中ではイマジナリ表記)との関係が終わる時を描いた話なんていくらでもあるし、そもそも本作には原作がある。だから、ストーリー自体は目新しいものでも何でもないベタなものだ。
でも、そのベタベタな展開に感動してしまう。
だいたい、映画ファンとかアニメオタクなんて、大人になってもイマジナリー・フレンドと生活しているような人種だしね。ましてや、クリエイティブ職にカテゴライズされる職に就いている人間なんてそんなのだらけだ。
自分だって、昔ほどではないが、いまだに現実には存在しない人物のことを寝る前に考えたりもしている。
だから、一般層には刺さらないかも知れないが映画ファンやアニメオタク、クリエイティブ職従事者にはそれなりに受け入れられてもらえるのではないかと思う。
まぁ、ツッコミどころやご都合主義が多い作品だとは思うが。
ラジャーが主人公かと思ったら、ラジャーはアマンダが作ったイマジナリだということが明かされ、それ以降はしばらく、アマンダ目線で話が進んでいく。
ところが、アマンダが事故に巻き込まれて意識を失ってからは完全にラジャーが主人公になっているという構成はどうなんだろうと思わないでもないが…。
それから、ラジャーが途中で男の娘になるのも、どの層にアピールしているんだろうかと思ってしまった。個人的には好きだけれど。
あと、欧州風の無国籍の町を舞台にしているのに、ところどころ、日本語の文字(貼り紙など)が出てくるのはどうなのよって思った。全部、日本語なら問題はないんだけれど、英語も混じっているから中途半端なんだよね。
でも、全体としては良かったと思う。想像した通りにストーリーが進むベタな展開だけれど、それのおかげで終盤はウルウルしてしまった。
年末年始のファミリー向けアニメーション映画は他にも「SPY×FAMILY」、「ウィッシュ」、「パウ・パトロール」、「窓ぎわのトットちゃん」があるので、ぶっちゃけ、本作まで注目されない状態になっているから、公開のタイミングさえ良ければもう少し話題になったのになとは思う。
そう言えば、クレジットに協力:庵野秀明とあったが、あの庵野秀明か?
《追記》
年末に横浜で本作とコラボしたクリスマスのイルミネーションを見かけた際に“この映画ってクリスマスと関係あるのか?”と思ったが、冒頭の方にそれっぽい場面があったから一応、クリスマスは関係あるようだ。