今日のカツ丼【つぶやき#1】
―「ただいま」と言いたくなる味―
月曜の夕方。
法務の仕事をしていると、「問題解決」が日常だ。
契約書の修正は突然舞い込むし、トラブル対応は避けられない。今日は特に忙しくて、社内の相談だけで気づけば昼休みを逃していた。おまけに午後の会議では思わぬ追加タスクを振られ、机に戻った頃にはぐったり。
何もかも投げ出して帰りたいけど、そんなわけにはいかない。ふと視線を窓の外に向けたとき、頭の中に浮かんだのはカツ丼だった。
「そうだ、カツ丼食べよう。」
理由なんて特にない。ただ、あの一杯が今の自分に必要だと思ったのだ。
その一杯に込められたもの
オフィス街の隅にある定食屋。暖簾をくぐると、柔らかな出汁の香りが出迎えてくれる。疲れた心を解いてくれる、なんとも言えない安心感がそこにはある。
「カツ丼、お願いします。」
カウンター席に腰を下ろし、その言葉を口にする瞬間は少し特別だ。慌ただしい日常の中で、自分のためだけの小さな時間が始まる合図みたいだから。
待つ間、厨房から聞こえる鍋の音やタレの甘い香りに包まれると、不思議と肩の力が抜ける。仕事のことは一旦忘れよう。今はこの瞬間を楽しむだけでいい。
運ばれてきたカツ丼は、湯気まで美味しそうだった。卵はふわふわ、カツは衣がサクサク。甘辛いタレが白いご飯にしっかり染みている。箸を持つ手が自然と動く。
一口目を食べた瞬間、口の中に広がるその味が、まるで「おかえり」と言ってくれるような気がした。頑張ったこと、疲れたこと、全部肯定してくれる味だ。
ただの丼、されど丼
カツ丼を食べるたびに思う。
この一杯はただの食事じゃない。自分を取り戻すための儀式みたいなものだ。
今日は散々だったけど、この丼のおかげで少しだけ楽になった。「明日も頑張ろう」とまではいかなくても、「まあ、どうにかなるか」と思えるのは大きな一歩だ。
店を出て、冷たい風が頬に触れる。疲れていたはずの足取りは、なぜか少しだけ軽い。
仕事はまた明日続くけど、大丈夫。
一杯のカツ丼が教えてくれたのは、どんなにしんどくても「戻れる場所」があるということだ。
カツ丼に救われるのは、こういう日があるからだと思う。