知識は私たちの外にあるか中にあるか?:Unit1 Week03
今回の記事では、Week03(2020/10/19〜)で学んだ理論構築における認識論:epistemologyについて取り上げます。今日の話も抽象的ですが、質の高い研究を実行する上でとても重要な内容となっています。
ちなみに前回の記事では、「存在論:ontology」について実存主義と相対主義の2つを紹介しました。
存在論を土台に、世の中の現象がどう存在しているかについて自分なりの哲学的視点が明らかになります。そして、その次に重要になるのが認識論です。
1. 認識論:Epistemology
知識獲得に関する視点が土台になるのが認識論で、例えば「知識は何によって構成されているか?」「その知識はどのようにして認識できるか?」といった問に対する考え方となります。
認識論は、研究手法を設定する上でとても重要です。研究手法は研究目的によって決まりますが、そもそも研究の大きな目的は新しい知識を創造することです。
よって、研究者が知識をどのように獲得できると考えているかによって、研究の目的も異なり、研究手法も異なってきます。知識創造のプロセス自体が大きく変わるわけです。
ここでいう知識創造のプロセスには大きく2つの方向性があります。1つが、統計上の数値など、定量的な情報を扱って世の中の現象を明らかにする場合です。
もう1つが、インタビューをして関係者に話を聞きながら、定性的な情報を扱って新しい知識を生み出そうとするケースです。
2. 客観主義 vs 主観主義
定量的に世の中の現象を分析する方法は、前回紹介した実存主義が土台となります。そして、知識創造についてこう考えています。
「世の中の現象は私たちの行動とは関係なく独立して存在している。よって、世の中に既に存在している知識を客観的に把握・発見することで、知識は創造される」
一方、定性的に世の中の現象を分析する場合、実存主義とは対局の相対主義が土台になります。相対主義の立場では知識の創造を次のように考えます。
「知識は人々の認識や交流の中で生まれるものであり、独立事象として存在するものではない。よって、人々がどう主観的に考え・感じているかを理解することで知識は創造される」
前者は客観主義:objectivism、後者は主観主義:subjectivismと呼ばれています。
3. 認識論が研究手法に影響を与える
おおざっぱにこれまでの流れを整理すると、それぞれ以下のようになります。
1) 客観主義の場合
世界の捉え方としては実存主義が土台になっており、定量的な分析手法のように分析対象に対する客観性が担保される方法論で知識創造がなされる
2. 主観主義の場合
相対主義を土台に世界を捉えており、定性的な分析のように分析対象者の主観性を重視する方法論で知識創造を行う。
客観主義の場合、既に存在が証明されている理論やフレームワークがあれば、それを土台にしながら世の中の現象を分析をします。
一方、主観主義の場合は既存の理論を意識しながらも、それとは異なる新しい理論が世の中にあるのではと考えながら分析をします。
大きな違いは、客観主義では知識は私たちを取り巻く外側の環境に存在していると考える一方、主観主義ではその知識は私たちの中に潜んでいるという捉え方をします。
よって、外にある情報をどうやって分析するか?という発想になるため、客観主義では主に定量的に扱える数値データが重視される傾向になります。
一方で、主観主義では私たちの中にある情報をどう分析するか?という考えのため、インタビューなど人々の頭の中にある考えや感情にアクセスしようとする定性的な方法が主に重視されます。
このように、認識論(客観主義 vs 主観主義)の違いによって、新しい知識をどのような方法で獲得するかという具体的な行動に差が生まれます。
まとめ
今日の記事では、前回の存在論に続き、抽象的ながら研究手法の決定に影響を与える認識論について客観主義と相対主義の2つの視点で簡単に紹介をしました。
次回の記事では、リサーチク・エスチョンについて取り上げたいと思います。
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この記事の執筆者:柏野尊徳(Takanori Kashino@アイリーニ)
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