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音に包まれる静寂と、その奥にあるもの

音に包まれる静寂と、その奥にあるもの

まるで遠い海辺の波音に身を委ねるように、やさしく広がる音の振動。それは、私たちの胸の奥にある“安心”の扉をそっと開く鍵のようにも思えます。普段は意識の届かない深いところ――そこには、古くから進化の過程で育まれた私たちの防衛システムと、つながりを求めるシステムが同居しています。私たちの身体には、生まれつき「安全を感じると自然に緊張をほどき、他の人や世界に対して“こころを開こう”とする」仕組みがあります。

サウンドバスに身を委ねると、響き合う倍音が身体中をやさしく揺らし、頭の中の雑念を溶かすかのように流れていきます。脳の奥深くでは、デフォルトモードネットワーク(DMN)が目を覚まし、まるでスクリーンセーバーのように私たちの思考や感情を紡ぎ直してくれているかもしれません。過去の記憶や、まだ見ぬ未来、そして名前のない感情たち――それらが音の波に乗ってゆっくりと調和し、思いがけないひらめきや穏やかな喜びをもたらしてくれるのです。

私たちが当たり前だと思っている呼吸のリズムや、ドキドキと高鳴る胸の音は、実はとても繊細で、気づかないうちに日々のストレスや不安で乱されがち。それを整えるのが、腹側迷走神経のはたらき。やわらかな音のシャワーを浴びていると、自分が静かに“ここにいて大丈夫”という安心感を思い出す瞬間があります。まるで幼い頃、眠る前に母親が歌ってくれた子守唄のように、音の振動に包まれて、“ひとりじゃない”と思えるのです。

そして、ふと目を閉じれば、自分と周りを隔てている境界が少しだけゆるみ、同じ空気を吸い、同じ響きを感じる仲間の存在が、じんわりと心に広がっていくのがわかります。そこには言葉にならない連帯感と、いっしょに“いま”を過ごす尊さがある。だからこそ、サウンドバスの時間は、一人で深く内省するための静寂でありながら、同時にみんなとのつながりを感じる温かさにあふれた場所でもあるのです。

人は“静けさ”や“ゆるやかな音の広がり”を味わうときにこそ、本当の自分と対話し、未来へ続く新しい物語を紡ぐ余白を見出すのかもしれません。大きく息を吸って、ゆっくり吐いて――そんな当たり前の行為すら、この世界に生きている幸せを教えてくれる。サウンドバスは、音の響きとともに、私たち自身の深いところに眠る力を解放し、いつの間にか忘れていた“安心していい”という感覚を取り戻す贈り物なのです。


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