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僕は、凡庸な読者の本領を発揮した

オルタナ旧市街の「華麗に文学をすく? 梵」というレトルトカレーと文庫本サイズ小冊子を手にした。書き下ろしストーリーと、それに出てくるカレーをつくってみた!という双子のライオン堂と書泉の企画ものだ。
パッケージが華奢で、デリバリーされたときにはボコボコになっていたのがいただけないが、物語とカレーはよかった。

川に大量発生した謎の生物〝すーちゃん〟を食用化して難を逃れるという話。その過程で、膨大な量の〝すーちゃん〟を煮込むための鍋がないことが壁として立ちはだかるものの、その窮地を浅草寺の住職が救う。住職は梵鐘をひっくり返して鍋と使えばいいという。

ここまで読んできても私は単なる一つの物語として読んでいて(いや、同時にカレーも食べていた)、何もわからなかった。作者があるカレーから逆算してすべての物語を組み立てたことを。

〝すーちゃん〟は煮込むと蛸に似た食感と味になった。だから付属のレトルトカレーも蛸のカレーだった。トマトの酸味が効いた美味いカレーだ。個人的にはもっと辛くてもよいのだが、一般的にはこれで十分なのだろう。食べやすくもあった。

そして物語の最後の段落にきて、!ときた。そうか、そうだったのか。己の凡庸な理解力を思い知った。

作者のニヤリとした顔が浮かんだ。

「読むカレー、食べるカレー小説。スプーンを持ったその手でページをめくりたくなるような華麗な一編をお届けできるよう、心こめて仕込み、あ、いや、執筆します。どなたさまも匙を投げ出さずにお付き合いください」とパッケージ裏面に著者のコメントがある

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