オフの微笑みにほっとする。
三好桃加 初個展「仁王像たちのオフの日」
寺院の山門に二体一対で立つ仁王像。ここから先に仏敵を入れないために日々守護についている。現代ではこの仁王像たちもそれほどの激務をこなしているわけではなく、休日には休日の仁王像たちがいる。それをユーモラスな視点でものにしたのが、東京藝術大学大学院文化財保存修復彫刻研究室を二〇二二年三月に修了した三好桃加さんだ。
彼女の作品は、藝大の卒展・修了展で大いに話題になったそうだが、事前予約のチケットが取れずそれを真に受けて当日に行ってみることもしなかった私には何の情報も入ってきていなかった。アンテナの感度もすこぶる鈍っており、ネットで話題になっていることも全く知らなかった。
今回の初個展についても全く知らなかった。家人が藝大の人の個展が話題になっているらしいよ。見に行ってみたいというので、どれどれといっしょに覗きに行ったのだ。
そしてびっくりしてしまった。こんなに混んでいるギャラリーを見るのは初めてだった。美術館が新聞社の後援で行う企画展の、縮図のようなというべきか、ギャラリー版というべきか、そんなイメージ。初めて行ったギャラリーだったが、身動きがとれないというのは大げさだけど、自分の好きには動けないという大盛況ぶりだった。そして最終日だったということもあるのだろう、ほとんどの作品が売約済みだったことにも大層驚いた。
三好桃加さんは、二〇二一年度の卒業・修了作品展で京都府正壽院 快慶作 木造不動明王坐像をヒノキで模刻制作されている。それは文化財の保存に通じる技術を磨いた結果の作品だと言える。しかし確かな技術に裏打ちされたものとして、今回、古典から新しい作品たちが生まれてきたことは明らかだ。
SNSで大いに拡散されたのだろうことも想像がつく。表情はゆたかでかわいいし、ポーズにもニンマリとされられる。多くの人が写真を撮っていたことからも、現代人の心を仁王像という古典的な存在で捉えていることがわかる。それはすごいことだと思う。
〝仏教界の働き方改革〟などと評する人もいたが、私たちの、物理的な制約がゆるくなった現在の働き方には、もしかすると却ってこれほど完璧なオフはないのではないか。働く場所はいずこにも設定できて、その時間もフレキシブルになっている。それゆえ、オフは意識しないと訪れない環境でもある。特に私などは昔から仕事もプライベートも渾然一体となっている。
この仁王像たちの屈託のない休日感。そこには羨望の目が注がれている。まぁ、長い間、門に立ち続けていたのだから、少しくらい休日を楽しんでもバチはあたらないだろう。
私たちの慌ただしい休日は、あなたたちを見ることで過ぎていくのだから、そこには幸せが表現されていることはとても大切なことなのだと思う。
三好桃加 初個展「仁王像たちのオフの日」
@MDP GALLERY 中目黒
会期修了