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〝めんどくさい〟が、おもしろい。

ずいぶんと前の話になるが、巷で話題の?、気なるカフェに行ってきた。その名も「めんどくさいカフェ」。なにがめんどくさいかというと、自分が飲むコーヒーのために、焙煎からドリップまで、すべてを自分自身で行わなければならないことだ。「ブレンド!」と注文してスポーツ新聞を読んでいればコーヒーが出てくる喫茶店とは違うのだ。しかも無料ではない。
その日は、運動を控えろと繰り返し自治体からプッシュ通知がくる猛暑日。火を使って焙煎するなんてもっての外だ。が、そこは酔狂な好奇心が熱波に勝つ。

今日のコーヒーは、東ティモール・マウベシで手摘みされたアラビカ種というものらしい(ハイブリッド・ティモールとあるがその意味はわからない)。コーヒーは好きだが、こだわろうにも先立つものがアルコールに消えていってしまう私には聞いたこともない豆だ。

めんどくさいカフェで今日使うコーヒーのスペックが書いてあるA4の用紙。東ティモールの豆が使われている
個人的には普段あまり目にしないコーヒーのスペック。

あらかじめ規定の分量(二五gだったか?)に小分けにされているコーヒー豆を、上部に丸い穴が開いているハンディな焙煎器に入れる。取っ手をもってガスコンロの火の上で左右に細かく振って煎っていくというわけだ。この焙煎の工程がいちばん熱くて暑い。

ハンディな焙煎器に豆を入れてガスコンロの上で左右に振っているところ
火種からの距離、振り方など、隠せない個性がすでにここにある

ここで主宰の〝しばやす〟さんからどんなコーヒーが好みなのか訊かれる。酸味があるコーヒーが好きだと伝えると、であれば浅煎りがよいと教えてくれる。どの程度の浅煎り加減が良いのか。それは私の煎り方次第だ。

やがて少し煙がたってくる。その煙に連れられて煎られた豆の香りが届く。それが私には出汁のようだったり、烏賊の燻製香のようにも感じられた。豆が爆ぜてくる。少しして浅煎りを目指すならそろそろいいかもしれませんとサジェスチョンがあり、焙煎器を炎から外し、そのまま予熱でしばらく煎る。

奥に焦げたような色の深煎りの豆。手前にミルクチョコのような色味の浅入りの豆。ザルの上で粗熱を取っている
色味も一目瞭然

そのあと網の上に豆を広げ扇子で冷やしていく。手で触れられるくらいに粗熱が取れたら、ミルで挽いていく。浅煎りの豆は水分をまだずいぶんと含んでいるらしく硬い。ミルのハンドルがなかなか回らず力が必要だった。が、しかし突然ハンドルの抵抗がなくなる。それが挽き終わった合図だ。

挽いた豆をコーヒーフィルターにのせ、お湯をかけ始めたところ
少しずつ、少しずつドリップしていく

いよいよドリップの工程だ。ミルクチョコのような色合いの豆にお湯を少し落とし、しばし豆を蒸らす。それが終わるとゆっくりとお湯を注ぎ足しながら抽出していく。淡い色。口に含んでみると求めていた酸味がそこにあった。酸味の奥にはなにやらフルーツのようなニュアンスも感じる。おいしい。

ドリップし終わったマイ・コーヒー
ピンがあらぬところにあっているのはご容赦

このカフェ、お代わり自由だという。今度はどうしようか。深煎りにするのが比較としてはコントラストがはっきりしてわかりやすいのだろうが、さらに浅い方向に振ったらどうなるのかという興味も湧いた。

さらなる浅煎りの加減はもうほんとに素人の勘だけ。もう一度煎り直しますか、と訊かれるほど浅はかさ。それを無理やり挽くと先程より一層硬い手応え。その味はというと、最初は輪郭のないぼやけた味に感じられた。が、時間が経つにつれて、仄かな旨味がやってきた。その方向性は前回の浅煎り豆と同じものだ。それが穏やかに存在している感じ。時間の経過とともに感じられるものがあるということだ。

このカフェでは人のためにコーヒーを淹れることは禁止だ。あくまでも自分のために自分で面倒くさいを体験するのだ。そのあたりの〝しばやす〟さんの思いはこちらの記事に詳しい。
といってもそのあたり〝しばやす〟さんはみんな後づけの話としてサラリとかわす。

世の中が便利になることは悪いことではないけれど、便利の型に合わせられる人でなけれ弾かれてしまうというようなことがあるのではないか。サービスがあって当たり前ではなく、そこに求めるものは人それぞれなんだということを楽しみながら知る良い機会になった。

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TABU
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