大塚国際美術館にいきました
徳島県にある大塚国際美術館を訪れた。鳴門海峡のすぐそば、いつかの紅白歌合戦で米津玄師が歌っていたステージだ。あれを見てから、ずっと行きたかった。
スケジュール的に滞在時間が足りなかったのが心残りだが、芸術への造詣が深いとはいえない私でもとんでもなく楽しめたので人生初のレポを書きます。付け焼き刃の知識と身勝手な解釈という成分を含んでいるため、半分フィクションのつもりで軽く読み流してもらえると助かります。
システィーナ礼拝堂の天井画と『最後の審判』
まず、入ってすぐにある大目玉のシスティーナホール。システィーナ礼拝堂の天井画と正面壁画『最後の審判』を再現している。
天井に描かれているのは、旧約聖書の『創世記』に描かれた「天地創造」の壮大な場面。①神が世界が始まる瞬間に現れて暗黒の中に光を与える②人類の男女を創造する③しかし!人類は神の意思に背いて墜落④神は人類に「ノアの大洪水」の刑罰を与える。こういう話ね、ホームページに書いてあった。
それが天井中央の9場面であり、入り口(写真の手前)から奥に向かって話が進んでいくというわけ。
例えば、アダムとイブ(ギリシア語でいうとエヴァ)が禁断の果実いちじくに手を伸ばす場面なんかもあった。知ってるやつ。それにしても、アダムとイブってあまりにも獣すぎる。
次に、奥にある壁画の話。ミケランジェロの大傑作「最後の審判」だ。
後から調べて分かったんだけど、この絵は当初から賛と否の両論の嵐が吹き荒れていたらしい。で、その論争の的の一つが「従来のキリスト像とかなり異なり、ヒゲがなく、筋肉質で、裸であること」らしい。おもしろすぎる。
大きいおっぱいが誇張されて描かれたイラストについて激しく炎上したり擁護されたりする現代と変わらない。ちなみに、この壁画の裸体様式はギリシア神話のアポロン像をモデルにしている描き方だ。
改めて見ると、やっぱり全体の構図がおもしろいね。絵の左側が下から天国へと向かう構図(上に十字架があるね)になっていて、右側は反対に上から下の地獄へと向かう構図になっている。時計回りに循環しているようにも見える。
こういうのって上方の秩序ある調和のとれた天国と、下方の地上圏で起きている騒然とした地獄が対比されるのが多いはず。でも、この絵はほとんどの人が興奮しており、左半分と右半分で世界を分けるのが野暮にも思える。天国と地獄の境目が曖昧で、全体的にカオスってかんじ。
とはいえ、雲の上の天井世界の明るさと下方で積み重なる人の山とでは、どちらが安らかな幸福かなんてわかりきってしまうね。地上が地獄であるという主張は私が第一人者ではなかったようだ。それはそうだ。
『ヴィーナスの誕生』
こちらは言わずと知れた『ヴィーナスの誕生』。こういったルネサンス期の名作を前にして「ここってサイゼリヤだっけ?」とボケると程よくウケます。
他のいろんな絵と見比べると、いかにヴィーナスが美女として相応しいのかがわかる。例えば、アダムやイブと同様に裸体を晒しつつも明らかに“恥じらい“を感じるのだ。ヴィーナスの色香には獣臭さが無い。隠そうとする手のあざとさがきもちいい。
そして、この立ち方をみよ!貝の上で揺蕩うようにS字を描いて立っている。これはさすがに美しすぎると思う。
決して痩せているわけではないのに(現代的なルッキズムで話してごめん)、強風に煽られたら飛ばされてしまいそうな儚さを感じる。それゆえに、ふわ〜っと柔らかい西風の神の吐息だけでヴィーナスを岸まで運ばれているに違いない。
『岩窟の聖母』
さて、見比べてもらいたい絵と絵がある。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『岩窟の聖母』という絵画だ。
大塚国際美術館ではこの2点を横に並べて飾っており(そこを撮り忘れた!もっと時間をかけて写真を撮りたかった!)、美術の技法にはてんで疎い私でも間違い探しができた。ここは本当にサイゼリヤだったのかもしれない。
こんなふうに、わかりやすく天使の輪っかが頭上に乗っていたりする。まるで高度な落書きにも見えてしまう。作者が天才すぎる学者だからっていう偏見だろうけど、「ハイハイ凡人はこういう易しいのが好きでしょ?」とあえて偏差値を下げたかのような絵に感じる。まあ、好きですけど。
『オフィーリア』
最後に紹介するのは、ミレイの『オフィーリア』です。ロンドンの絵はおしゃれだね。
英才教育を受けていたミレイは、たしかに作品からも彼の教養が伝わってくる。育ちが良さそう。
息子に優れた画才があると気付いた両親はミレイにさらなる美術教育を受けさせるため、ロンドンへ移住。ミレイはわずか11歳にして、ロンドンのロイヤル・アカデミー付属美術学校に史上最年少で入学した。それからコンクールなどを受賞していくエリートというわけだ。
色鮮やかな花に彩られて川面に浮かぶ美少女は、シェイクスピアの『ハムレット』で悲劇的な運命を辿るあのオフィーリアだ。
そして、これが花言葉。絵が綺麗なのはいうまでもないが、ミレイの教養とセンスの良さが光るのはこういうところだと思う。全ての花々に意味がありあまるので解説は絞らせてもらうが、喉元にすみれ(忠誠)、腹にヒナギク(無垢)、腰下にパンジー(むなしい愛)、中央にポピー(死)を置くセンスの良さ。
ミレイってどんな音楽を聴くんだろ。彼の趣味が気になるくらい、おしゃれが伝わってくる。題材を含め、ダサい箇所がひとつもない。まあ、当時は批評されたらしいけど。
復讐に狂った恋人に、誤って自分の父を殺されてしまったオフィーリア。正気を失って、いろんな感情がごちゃ混ぜになって選んだ溺死。だけど、どこか夢のなかを漂うような美少女の最期は幻想的でうっとりしてしまう。
あと、単純に私はうつろな表情の美少女が大好物なのでこの絵がお気に入りだ。モデルになた女性は体調が優れなくて麻薬を多用しており、早死にした詩人だった。
お湯を張ったバスタブに浸かったモデルを、ミレイはお湯が冷めないうちに急いでスケッチしたという。良エピだ。この時代に、メイキング映像を特典につける文化がなかったことが悔やまれる。
展示物すべてを理解するのは不可能だけど、そんな私でも語りきれないほど大塚国際美術館にはみやすい展示とわかりやすい解説がたくさんあった。また、観光客が多いため敷居があまり高くないのも魅力だと思う。スマホのカメラをカシャカシャ鳴らしても白い目で見られることはないよ、ありがたいよね。
美術への造詣が深くない人間にもやさしいことは実証済みなので、ぜひ、安心して訪れてみてはいかがでしょうか!
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