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8月に読んだ本📚

「枕草子のたくらみ」山本淳子さん

すごく良かった。
著者の山本淳子先生の表面だけを見るのではなくて、その奥にある思い、その思いを促す状況、そこに至るまでの様々な感情の揺れだったり、言葉に隠された願い…その全てを感じ掬い取ろうとするような深い、深い愛情をひしひしと感じた。
何度も胸を締め付けられ涙した。
とても良かった。すごく良かった。

山本淳子先生は言ってみえます。
「どうか定子になった思いで触れていただきたい。その心にこそ『枕草子』は真価をあかすに違いないからである。」

最初は死を願うほどの闇の中にいた定子さま。
その暗闇に差し込んだ光、それが清少納言がしたためた「枕」でした。
あのもっとも有名な冒頭

「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく、山際すこし明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」

あらためて文字で読んで、なんて美しい言葉たちなんだろうと思いました。
滑らかに流れるように言葉が巡っていくようでした。
そして、ドラマ「光る君へ」で定子さまが読み上げていた声、あの声で聞こえるんです。
枕の言葉がそれぞれの季節を呼び寄せるような、あの場面の定子さまの声です。

こんなに心地よく古文の原文の音を感じながら読んだのは初めてでした。
それはきっと、そこに込められた思いをもう知っているからに違いありません。

この、枕草子の「たくらみ」
現実には潰えてしまった定子さまの生み出した文化。
機知と機転に富み、どんな時にも雅な風流さを忘れずに楽しむ華のような文化サロン。
それを清少納言は枕草子の中に永遠に絶えぬよう閉じ込め保存したのです。
強い意志を持って、定子さまの不遇な辛い状況は頑なに排除して。
定子さまのために、それだけを願い。
定子さまが皆の憧れの存在として甦り、永遠に皆の心にあり続けるために。

これこそが、私が清少納言、定子さま、そして「枕草子」に惹かれた理由に他なりません。
どうして、こんなに心を揺さぶられ惹きつけられたのか、やっとわかった気がしました。

清少納言に伝えたい。
あなたの「たくらみ」は見事に成功しましたよ、と。

「暗殺」柴田哲孝さん

すごかった。本当にすごかった。
すごいし、すごく怖い。これって、本当にフィクションなのかな…と思うほどだった。

首相の名前は現実とは違う人「田布施博之」
だけど、これは明らかに「安倍晋三」さんのことで、あの銃撃によって命を奪われた事件のこと。
宗教団体や政治家、銃撃した犯人やその他重要な人物は違う名前だけど、でも、もうそのままあの事件。
その後の賛否両論が湧き上がった国葬のことも、現実そのままだと思う。

物語の冒頭に「これはフィクションです」とあるけど、読んでいてこれが本当のことのように思えてしかたなく、すごく怖かった。

事件後、手術を行った医師の方の記者会見とその後の警察の発表との矛盾点も、その理由も、すごくリアルだった。リアルだから怖かった。
こんなことが許されるなんて、そんなの怖い。

昭和の時代の事件から全ては繋がっていて、その事件のことも本当にあったことなのか、思わず検索してしまった。
そしたら、本当にあったことで、しかも時効の迷宮入り。そのまま物語の通りで…
とにかく恐ろしかった。
恐ろしいけど、こんなのダメだ。こんなことがまかり通るなんてダメだ。
そんなふうに思うことしかできない自分の無力さに打ちのめされた。
打ちのめされながら、こんなの間違ってる、と心の中で叫んだ。

安倍首相のご冥福をお祈りします。

「コーヒーと失恋話」モモコグミカンパニーさん

10件の喫茶店とそのお店の取材から連想した10編の失恋の物語。

モモコグミカンパニーさんといえば、私にとっては「麦本三歩の好きなもの」の三歩ちゃんです。
著者の住野よるさん自ら三歩ちゃんのイメージにぴったりな女の子を編集さんと探しに探して選んだ、こだわりのあの表紙の女の子です。

書店の平台で偶然見つけたこの本。目が合いました。好き、そう思いました。
思いっきりジャケ買いです。
買ってよかった。

紹介されているお店に全部行きたくなるし、
10編の「失恋話」は、可愛らしい失恋、痛みをどうして癒したらいいのか途方にくれる失恋、未来に続く失恋、大切なものに気付かせてくれる失恋など…いろんな失恋のカタチを見せてるくれる。

モモコグミカンパニーさんの文章を初めて読んだけど、等身大の女の子の胸の内の言葉がすんなりと流れてきて、痛みさえも人事とは思えないそんな距離感を持つ文章だと思いました。
他にも著書があるみたいだから、また読みたいな。

住野よるさんの「麦本三歩の好きなもの」シリーズの三歩ちゃん役のモモコグミカンパニーさん。
第1集の三歩ちゃんが読んでいる本も部屋に置かれている本も、住野さんがご自身で選んだそうです📚
カバーを外した中もキュートな三歩ちゃんの写真なんですよ。
「東の海神 西の滄海」小野不由美さん

王や女王と麒麟との関係性はその国、その王や女王たちの数だけ個性があるんだなぁ…みんなそれぞれに違う。
今回の物語は雁国の延王尚隆と延麒六太の物語だった。

今まで読んだ「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」にも2人は登場していて、その印象は豪胆快活で、麒麟と王の関係性も主従というより、まるで遠慮なく言い合える歳の離れた友達のよう、そんなふうに思ってました。

だから、物語の序盤、意外だったんです。
あれ?って。
尚隆さんって、こんな感じだったけ?って。
一言で言うといい加減。無責任。風来坊。
だから、あれ?あれ?って。
私の中では、尚隆さんがいてくれたら安心、というような、すごく頼りになる器の大きな人、という気持ちがあったから。
困った時に颯爽と現れて、来てくれたらもう大丈夫、みたいな。

でも、そんな心配は杞憂でした。
尚隆さんはやっぱり尚隆さん。
「いい加減」を装う表面の下には誰よりも深い情が熱く満ちていました。
かっこいい!

そしてラストの「雁史邦書」で十二国の中で雁国だけが妖魔を三騎六畜に加えらたことが記されていて、胸が熱くなる。
更夜、よかったね!ちゃんと約束を守ってもらえたね!
更夜が微笑む姿が見えるようでした。

次はどこの国のどんな麒麟、どんな王や女王さまの物語だろう…!
それを想像するのも十二国記シリーズの楽しみなんですね。

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