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7月に読んだ本📚

「月と日の后(下)」冲方丁さん

いつも不安気に俯いていた、あの心もとなげな少女だった彰子さまが
一条天皇が笛を聴かせてくれてもそっぽを向いていたあの幼い少女が…よくぞここまで…
読み終わった時、ただ、ただ感無量の気持ちが込み上げ、1人の女性のその道のりの辿り着いた先に尊崇の念が込み上げました。

「国母たる身を国と民に献げる」

栄華を欲すれば怨みを生む、その連鎖をなんとか断ち切ろうと、怨みに囚われないよう自身を律し、公平さと愛情をもって一族を守り、国の安寧を祈った彰子さま。
まさしく国母と尊ばれるのにふさわしいお方でした。

私が特に心を打たれたのは、一条天皇への深い敬愛の思いと、一条天皇と定子さまのお子さんを義務や使命感ではなく、心からの愛情を持って慈しみ守ろうとなさったことです。

波乱に満ちた人生、肩にのしかかる重責、繰り返される放火での焼失、そして、自身を追い越してこの世を去る大切な人たち…
その全てに向き合い続けた87年の人生でした。

彰子さまのことを知ることができてよかった!

「魔性の子」小野不由美さん

なるほど…これが「十二国記」のエピソード0なんだ…
ちょっと混乱しながら読みました。

泰麒が、こちらの世界に戻ってきてたなんて…思いもよらなくて。
しかも、なんて言うか…影がある男の子になってて、あの無垢な小さな男の子の姿は消えてしまってた。
それが混乱でした。

十二国記の世界でやっと自分の居場所を見つけ、生き生きと暮らしている…と思っていた泰麒にいったい何があったの…?
記憶が無いということは、あの幼い日に十二国記の世界に行かないで、こちらの世界で育っていたら…というもう1つの泰麒の姿がこの「魔性の子」の泰麒なのかもしれないな…なんて思ったり。

これがエピソード0…
時系列でいったら1巻の「月の影 影の海」と同じくらいの頃になるの…かな?
陽子さんが女王になった頃…なのかな?
うーん。どうなんだろう?
これからシリーズを読んでいけばわかるのかな。

この「魔性の子」は1巻、2巻とは随分印象が違う物語でした。
1巻と2巻を読んでなかったら絶対ホラーだと思ったと思う。
え?十二国記を読んでるんだよね?って、なったもの。

汕子…優しい慈愛の印象だったけど…なるほど…こういう一面もあるんだなぁ…
人の理とはまた違う、人ならざるものの理。
なるほどなぁ。それは、そうかもしれないなぁ。

とにかく、泰麒に何があったのか知りたい!

「スピン8」河出書房新社
毎回違う様々なこだわりの紙を使っているスピン。
今回は「玉しき みずたま」でした。
現在在庫限りなのが残念くらい趣のある素敵な紙です。
名付けの由来は、なんと和歌から。それもとても素敵。
「雲の上の有明の月も影さえてふるや霞のたましきの庭」

毎号変わる表紙の言葉。
今回の俵万智さんの言葉(短歌)が好きです。
「傘だった言葉を閉じて歩くとき杖ともなりてゆく空の下」
素敵。
そうですよね。そうなんですよね。
だから、言葉が、物語が大好きなんです。

今号から始まった新連載の「警察小説アンソロジー」
第1回目の天袮涼さんの「警察の番人  前篇」がおもしろかった。
ミステリともまたちょっと違うドキドキ感があって、自分もいろいろ考えながら思考を巡らすのが新鮮。警察小説もおもしろいな〜
後篇も楽しみ。

「産声」平戸萌さん(読み切り短編)
4年に1度行われるお祭り。
あの震災、東日本大震災で中止になり、その後はコロナでまた中止となっていたお祭り。
そのお祭りがやっと迎えられた念願の日のお話だった。

今年、震災に思いを馳せた句集「東日本大震災を詠む」を読んで、大切な人や日常を突然奪われた人たちの悲痛な思いに俳句を通してたくさん触れました。
その俳句に詠まれた人々の思いも心に蘇りながらこの物語を読みました。

あの震災で名前さえつけられることなく、生まれる前にこの世を去ったお子さん。
祭りの最中に出産を迎えた人。
祭りの神輿を担ぎながら、祭りを喜び祈る人々。
過去と未来が繋がり一体となり、その行先は希望だと思えた。

私も一緒に祈り手を合わせたくなる物語だった。
どうか人々の願いが聞き届けられますように、と。

河出書房新社の創業140周年カウントダウン企画として16号限定の刊行として始まった「スピン」
今回の「スピン8」でいよいよ折り返しです。
こうして並べてみると、本当に個性豊かな様々な表情の本誌が愛おしくなります。
初めて手に取った「スピン1」はその手触りがうっすらと起毛しているようで、桃を柔らかく手のひらに包み込むのに似た心地だったことを懐かしく思います。
もう、あれから2年も経ったんだな〜
この後の2年も慈しみながら、この特別な企画に読者としてささやかに参加できる喜びと共に「スピン」を読んでいきたいと思います。

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