読書感想文:アラトリステ/アルトゥーロ・ペレス=レベルテ
アラトリステⅠ
現在(2007年当時)4巻まで発売されている、スペインのアルトゥーロ・ペレス=レベルテという人の(経歴は戦争ジャーナリスト→作家)小説。
5巻も翻訳が決まっていて、6巻もあるらしいが、とりあえず1巻だけ。
El capita'n Alatriste
というのが原題で、これだけでも相当かっこいいと思う(ミーハー)。
架空の歴史戦記っぽい部分もありつつ、史実の人物を登場させながら、カピタン(隊長)と呼ばれた架空の「アラトリステ」という人物を作り上げる手練はたいしたもの。
エンターテイメントとしても一流だし、何よりこの人スペイン(自分の国)が好きだ、ものすごく好きだ。
そういった空気は読んでいて分かる、鼻につくほどの当時のスペイン弁護が入るかと思えば客観的な冷徹な洞察が混じる。
その二律背反は登場人物にも反映されていて、その複雑さが、一見単純なものになりそうなこの物語に深みを与えているんだろうと思う。
っていうか、だれかデュマと比肩していたけれど、私はどっちも好きだ。
1巻は、暗殺を依頼され、それを行おうとするアラトリステが国際的な陰謀に巻き込まれていく様を描いている…って、帯のあおりのような文句だが、その通りなのだから仕方ない。
イングランド皇太子に一方ならぬ恩義を感じられたり、貴族のお知り合いがいて力になってもらえたり、何よりケベードが友人だったり、レベルテはちゃんと読者のつぼを心得ている。
何より大切なのは、アラトリステが、その出自さえ明らかな「謎でない」ヒーローであるにもかかわらずミステリアスで、謎めいた人物に感じられるところだろう。
彼が何を思ってどう行動するか予測できるにもかかわらず、「彼はどうするだろう」と頭を悩ませる余地があるのは、やっぱり稀有なことだ。
面白い。
アラトリステⅡ
アラトリステは今のところⅢまで読んで今Ⅳに取り掛かり中なのですが(他の本の合間や仕事の合間だと進みが遅い)、やっぱり面白い。
一巻は、「それだけで終わっても大丈夫」的冒険活劇の要素が多かったのですが、二巻目はよりスペインの闇を色濃く描き出していて、冒険活劇というには異色だと思うのですが、読み応えがある。
異端審問。
これはスペインというよりヨーロッパの闇だと思うのですが、これの悲劇は本当に大したものだったと思う。正義と宗教の名の下に一度疑いをかけられたら逃れようのない暗黒だしね。
奇妙に公平な面もあり、差別もあり、それら全てを包含して絶望と義務と恋が捨てがたい。
イニゴというのが語り手の少年ですが、彼はアラトリステに代表されるフェリペ2世時代のスペイン軍人をフェリペ4世時代の人間として描くのに非常のよく描かれていると思う。
単なる語り手としての位置しか持ち得ないなら、彼の語る言葉ももっと薄っぺらくしか感じられなかったろうし、彼自身に歴史と厚みを与えることで、描き出せる事柄が増えているように思えます。
っていうか、ものすごくミーハーなことを言えば、悪魔のようなアンヘリカちゃんがとてもお気に入りだ。
アラトリステⅢ
「ブレダの太陽」
表題良くないですか、かっこいいよ。
今現在四巻を読んでいるところですが、三巻の感想。
いよいよ来たな、というのが個人的な感想です。
今まで1巻は元軍人アラトリステの巻き込まれた陰謀(街中で)、2巻は巻き込まれたけどスペインの闇的な異端審問の話だったのですが、今回は、フランドルでの血反吐を吐くような戦闘そのものです。
好き嫌いは分かれるんだろうけれど、私は個人的には非常に読みでがあって面白かった。
なんというか、勧める相手は選ぶけれど。
歴史小説とか戦記ものとか好きな人はお勧めなんだろうと思った。
まあお勧めするより独り占めしたい人なので(ベストセラーに何を今更)、本を掴んで昼寝したりするわけですが(用法間違い)。
アンヘリカの手紙が、本気でぐっと来ましたよ(古)。
いや、感動したとかそういうあれではなく、背筋に戦慄が走るというか。
悪魔のようにうつくしく邪悪な少女というモティーフは捨てがたく蠱惑的です。
アラトリステと関係ないですが、同じ作者のナインズゲートも読んでるのですが、こっちも面白いです、まあそのうち。
(2007年頃3まで書いて途絶している、4巻に出てきた貴族の造形が好きだけれどどうしてもそちらの筋道に行く…というちょっとだけ失望があったのをうっすら覚えている。
あと、アラトリステは映画化もされた。ヴィゴ・モーテンセンだったと記憶している。彼は良い俳優だけれど、個人的なイメージとして、アラゴルン王の時も今回も、イメージは非常に近いのだけれど、やや線が細いと思った覚えがある。
映画は、一作に色々詰め込もうとして、少し見づらい出来になっていた。もっと絞って作った方が良かったとは感じたなあ。)
(映画のAmazon貼っときます)
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