とり野菜みそと私。
私にはお気に入りの味噌がみっつある。
ひとつは味噌汁に使う日本海みそ。カップ雪ちゃんの名前でスーパーに売られている。これは実家で使っていたからなんとなく私も使うようになった。
ふたつめは味噌炒めなんかに使う、つけてみそかけてみそ。炒めた具材に適当にびゃーっとかけて絡めるだけで味が決まるので気に入っている。
そしてみっつめ。
私のマストアイテム、石川県民のソウルフード、とり野菜みそである。
この昭和感あふれるレトロなパッケージを見て欲しい。鍋の写真と、謎の女性のイラスト、そしてとり野菜みそのロゴ。
これこそが、石川県民が愛してやまないとり野菜みそである。スーパーの味噌コーナーで見たことがある人もいるはずだ。いやでもこれは私が石川県民だからであって、そうでない人はたとえそこにあっても、視界には入らずスルーしているかもしれない。
こんなの見たことないよ! という人は、一度スーパーでこのパッケージを探してみて欲しい。そしてもし発見したならば、一度でいい、ぜひ買って食べてみて欲しい。
絶対ハマるから。
私は今でこそなんちゃって都民として東京に住んではいるが、もともとは北陸の真ん中、石川県に住んでいたのだ。転勤族の夫と結婚して以来、各地を巡るさすらいの民と化したが、心は今も石川県民だ。
話を戻そう。
石川県民のソウルフードといえば、ひとつは8番らーめん、そしてなんと言ってもとり野菜みそだ。石川県民の身体はこのふたつできていると言っても過言ではない。まあそれは言い過ぎかもしれないが、それくらい、石川県民にとってなくてはならない味なのである。
しかし残念ながら8番らーめんは基本的に北陸三県にしか存在しない。いや、実際には長野と愛知、そしてなぜか岡山にはあるらしいが、東京ではまずお目にかかれない。今の私にとって、8番は帰省した時にしか食べられない幻の味となってしまった。
しかしありがたいことに、とり野菜みそは違う。今まで何回か引越しを経験したが、どこのスーパーにもとり野菜みそは置いてある。
おかげで私は、どこにいても石川県民の魂の味を味わうことができているというわけだ。
それはさておき、この味噌は、パッケージにもあるように、鍋に使うのがマストなのだが、私がヘビロテしている使い方は、魚の味噌漬けである。
使い方は簡単、鮭でもブリでもタラでも鯛でもなんでもいい、好きな魚の切り身を買ってきて、とり野菜みそをまぶして数時間置いておくだけ。それだけで美味しい味噌漬けの出来上がりだ。
我が家は夫と息子が煮魚はあまり好まないこともあり、自然と焼き魚ばかりになる。そこで、試しにこのとり野菜みそで漬けた魚を焼いて食べさせたら、二人とも見事にハマったというわけだ。
息子は私の血を引いているから、魂の半分は石川県民である。だからこの味にハマってもなんら不思議ではないが、夫は生まれながらの東京都民だ。
その夫をして、この味噌はうまいと言わしめたのだから、とり野菜みそは万人が好む味と言って間違いない。
ちなみに魚だけでなく、肉を漬けてももちろん美味しい。鶏肉にも豚肉にも合う。高いからなかなか手は出せないが、牛肉にもきっと合うと思う。
ところで、この味噌の名前だが。
とり野菜みそという名前からして、鶏肉に合うんだろうとなんとなく思うかもしれない。かく言う私も長年そう思っていた。(とは言っても、鍋に使う時はもっぱら豚肉を使っていたが)もちろん鶏肉にも合うのは間違いないのだが、実はこのとり野菜みそという名前、鶏肉のとりではないのである。
――は?
何言ってんの?
そうお思いかもしれない。いや私もそれを知った時はそう思った。じゃあとりって何なんだよ。鶏肉じゃないとりって何なんだよ??
ではここでとり野菜みそを作っている会社、まつやの公式サイトを見てみよう。
【「とり野菜みそ」の「とり」は鶏肉からではなく、野菜や栄養を摂るという意味が込められています】
な、なんだって――!?
とり野菜って鶏と野菜じゃないんかい!!
野菜を摂るからとり野菜みそ……何というネーミングセンス。
て言うか、まつやさんはその辺をもっとアピールしたほうがいいと思う。石川県民でさえ、鶏肉のとりだってずっと誤解したまま食べている。
私も由来を知ったのは、大人になってからだった。しかも結婚して地元を離れて、初めてまつやのサイトを見て知った。
とり野菜みそって鶏肉に合うげんよ、と言いながら豚肉で鍋をしている石川県民のなんと多いことか。
とり野菜みそのとりは鶏肉のとりじゃないんだよ。
もちろん鶏肉にも合うけど、野菜をとるっていう意味だからね、ここテストに出ます。覚えておきましょう。
つまりどういうことかというと、とり野菜みそは肉にも魚にも野菜にも、とにかくなんにでも合うってことだ。
とり野菜みそ、最高――!!!!