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次こそは、「私、失敗しないので」─大門未知子に誓った某日
新年明けての初映画である。
劇場内は見知らぬ者同士、お茶の間で一緒にくつろいでいるような共有感に包まれている。同じシーンやセリフでクスリと笑い、あちこちから漏れ聞こえる「おぅ」とか「出た出た」等々の嬉々とした呟き。
その劇場の映画とは、『劇場版 ドクター X FINAL』だ。
テレビ朝日系列で2012年から始まった『ドクターX ~外科医・大門未知子』シリーズは、いま公開中の劇場版で最終回を迎える。米倉涼子さん主演の大人気医療ドラマだ。
群れを嫌い、権威に屈しない一匹狼の天才フリーランス外科医・大門未知子(米倉涼子)が、権威欲渦巻く大学病院で難オペを、勝手に、鮮やかにこなしていく。腐敗した医療現場をコミカルに描いた、笑いと感動が交差する痛快シリーズである。
劇場版はFINALと銘打つだけあり、予想を凌ぐ展開に息つく暇も与えられない。
テレビとはひと味違う、映画ならではのスケール感に大満足だ。
▲YouTube:東宝ムービーチャンネル
『劇場版ドクターX FINAL』予告【12月6日(金)公開】
私はこの劇場版を観るために、年末年始から『ドクターX ~外科医・大門未知子』をシーズン7まで観てきた。
このドラマ、シリーズを通して観るのは何回めだろう。
ストーリーも大体覚えている再再視聴なのに、観るたびにスカッとする。
毎回同じパターンではある。それさえもギャグにしてしまう自虐セリフがおかしくて、観始めると中毒のようにやめられない。
これは西部劇だな、水戸黄門だよ。古い例えで申し訳ないけれど、そんな勧善懲悪、溜飲が下がるような爽快感に力が湧くのだ。
ここぞというピンチのときにオペ室のドアが開き、スーパードクター大門未知子(米倉涼子)が入ってくる。そして奇跡のオペをこなすという、お決まりのクライマックス。
音楽も西部劇マカロニ・ウェスタン風で、オペ=決闘のような緊張と熱闘。大門未知子のメス捌きと熱意に感動し、カッコ良さに釘づけになる。
そのあと病院側に莫大な請求書が突きつけられる展開で、ドラマは終わる。
このパターン、この様式美がクセになるのだ。
回りくどさは微塵もなく、感動の勧善懲悪コメディに徹しているところも潔い。
▼音楽を担当した沢田完氏が、エンニオ・モリコーネの『荒野の用心棒』をイメージしたというテーマ曲。豪華なオーケストラ演奏でも楽しめる。燃えるな〜
▲YouTube:枝並千花CHANNEL
ドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子〜』より -
ドクターXのテーマ ORCHESTRA POSSIBLE
お決まりのセリフは、「御意」「いたしませーん」「私、失敗しないので」。
これらが聞ければ気分は上々、幸せホルモン・ドーパミンが溢れて全身スッキリ。
これぞエンタメ、文句なしだ。
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ここでは劇場版の具体的なストーリーは語らない。
ぜひ予告編の映像だけ見て、劇場版最終話を存分に楽しんでいただきたい。
ただ冒頭でも書いた通り、劇場内は見知らぬ者同士、お茶の間で一緒にくつろいでいるような共有感に包まれていた。
このことだけは触れておきたい。
私の両隣に坐った男性客ふたりも、例外ではなかった。
70代くらいの男性客(通称:70代M)と
30代くらいの男性客(通称:30代M)である。
映画が始まり、海老名先生(遠藤憲一)や蛭間元院長(西田敏行)のギャグセリフが飛び出すと、場内が一気に暖まった。懐かしい人に会えたような、嬉しささえ漂う沸き方だ。作品と登場人物への愛が劇場内を埋め尽くす。
70代Mも30代Mも、もちろん同じ。スクリーンを前に世界観に取り込まれているようだ。
そのムードに負けそうになった私、思わず「海老名先生、相変わらずバカですよね〜」と、30代Mに話しかけそうになってしまった。
いかんいかん。
いやもう、初っぱなから黙ってられなくなるんだな。家で観ているみたいに大笑いしたりツッコミいれたくなってしまう。
オペシーンが始まると、大門未知子の術式に思うところがあるのか、30代Mが身を乗り出した。
そして「それやる? ヤバいよ」とニンマリひとりごちたのだ。
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30代M、アナタ医師だね。
私、見誤らないので。
別のオペシーンでは大門未知子の見事なメス捌きに、70代Mが「おぅぅ早すぎ、早すぎ」と、ハッキリ声を出して小さく拍手した。
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70代M、アナタも医師だね。
私、見誤らないので。
リアルな医師も夢中にさせるのが大門未知子の手技なのか。
それより30代M、アナタ、いま小さく「御意」って呟きましたね。
映画の海老名先生や腹腔鏡の魔術師・加地先生たちに追従して。
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そして映画のラスト、大門未知子がこのセリフで決めてくれた。
「私、失敗しないので」
私は見逃さなかった。
30代Mが「よし」って拳を握ったのを。
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ところで私、映画を100%楽しめたのだろうか。
両隣の70代Mと30代Mが気になって、没頭できたのは80%ほどかもしれない。
しかも何度もお腹がグゥと鳴り、70代Mにも30代Mにも気づかれた。
上映中になんで鳴るんだ、私のお腹。
映画終了後、場内が明るくなると両隣の男性ふたりも席を立った。
30代Mが、盛大にお腹を鳴らした私の顔を覗き込んで会釈する。
私、なんという恥さらし。
男性諸氏のように呟きはしなかったけど、いや呟きまくりたかったけど、腹音だけを披露したとは。
リベンジ決定。もう一度観に行こう。
このお茶の間現象に私もどっぷりハマり、小声でこっそり呟こう。笑うのだって我慢しない。腹ごしらえもちゃんとして、100%映画を楽しもう。
次こそ、私、失敗しないので。
最後に─。
西田敏行さんが亡くなられたことは本当に残念である。
怪優だ。映画の中でも存在感は絶大だった。
蛭間重勝よ永遠に・・・
了
サムネールはUnsplashのKris Luhearsが撮影した写真を使用しています