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“ネタ系音楽事典” (第二夜) 大滝詠一とチェット・ベイカー 〜辞書コラム

音楽のオモシロひとこと情報辞典「荒唐無稽音楽事典(高木壮太著/焚書舎)」で遊ぶ、第二夜である。

「荒唐無稽」と言うとおり、著者・高木壮太氏のセンスと毒舌解説がめっぽう楽しい。

第一夜では、オアシスとエディット・ピアフを取り上げた。



この記事で取り上げる音楽ジャンルには節操がない。解説ネタのオモシロさで選んでいるため、なにとぞご了承を。


「荒唐無稽音楽事典(高木壮太著/焚書舎)の解説は、ざっとこんな具合。

【現代音楽】(ジャンル)
はっきりとした定義は存在しないが、発表したときに顰蹙ひんしゅくを買う、というのが条件。

【尾崎豊】(人物)
ヒトサマのバイクを盗み、ヒトサマの家の庭でシャブ爆死した日本のカート・コバーン。

【唱歌】(ジャンル)
『蝶々』『蛍の光』『仰げば尊し』などは全部外国の歌に無断で歌詞をつけたものである。〜中略〜

【シンディ・ローパー】(人物)
大変な苦労人である。歌手として世界的に大ブレイクしたあとも一時期プロレスラーのマネージャーなどもやっていた。



というわけで第二夜は、このふたつ↓withハルカコメントでお送りしたい。




●【大滝詠一】 シンガーソングライター

(解説)
イラストレーターの太田螢一と名前の発音がほぼ同じである。「おおたきえいいち」「おおたけいいち」ネイティブの日本人でもその聴き分けは困難である。

高木壮太著/焚書舎『荒唐無稽音楽事典』より引用


★★ハルカcomment★★

イラストレーターでミュージシャンの太田螢一とミュージシャンの大滝詠一
哀愁に満ちた音楽性の太田螢一と、明るくポップで爽やかな大滝詠一サウンド
名前音感は似ているが、サウンド的には対極のイメージだ。

でもこの2人、細野晴臣との関わりという共通点がある。

大滝詠一は、細野晴臣と共に元・はっぴいえんどのメンバー。

太田蛍一ゲルニカでもある。
ゲルニカは戸川純、上野耕路、太田螢一によるテクノポップ・ユニット。1982年、ゲルニカの1stアルバムは細野晴臣プロデュースでリリースされている。

80年代は実験的で先鋭的でキッチュでヘンなサブカルが大量発生する時代。
モテなど度外視のとんがった(←死語)感性の音楽やアートを解することがオシャレとされた。ゲルニカもそのひとつだ。

ミーハーな私もこのニューウェイブ街道(←死語)まっしぐら。
洋楽ではクラウス・ノミなどキテレツ系も好んで聴き、ヒカシューのピコピコサウンドや戸川純の病的で白痴っぽいカワイさに憧れながらも、王道路線で新しさを追求するメロディアスでポップな大滝詠一のロンバケ(ロング・バケイション)から逃れられずにいた。 
(*ドラマの「ロングバケーション」とは無関係)

残念ながら、ゲルニカは一時的な時代の象徴として過ぎ去ってしまう。

大滝詠一は今でも聴ける。積極的に聴きたくなる。
古くならない偉大なエタニティミュージックだ。日本のシティポップを築いた音楽の底力だな。魅力だな。


特に大名盤と誉高ほまれだか『ロング・バケイション』は、フィル・スペクターの影響が色濃い**ウォール・オブ・サウンドが楽しめる。
(**複数の楽器を重ねた厚みのあるサウンドや、深めのエコーや残響効果が生み出す高密度な立体音響)。
とにかく、オーケストラのような迫力なのだ。

下で紹介している『君は天然色』(『ロンバケ』収録曲)は、ウォール・オブ・サウンドが堪能できる絶好の曲。

出だしロネッツの『ビーマイベイビー』を彷彿させる。
でも『君は天然色』は、軽快でリズミカルなメロディラインと胸の辺りに“ズドン”とくる快感で盛り上がり、ドラマチックに曲が始まる。

歌詞とメロディが一体化するブリージーな世界観も心地いい。作詞はもちろん、松本隆。
心情や情景が映像のように再現されることばに、酔って酔って酔いまくれる。


▲YouTube:Sony Music (Japan)チャンネルより引用
[Official] 大滝詠一「君は天然色」Music Video
(40th Anniversary Version)


▲YouTube:The Ronettesチャンネルより引用
The Ronettes - Be My Baby (Official Audio)
*この曲、元祖ウォール・オブ・サウンドの代表格!


太田螢一のイラストアートワーク・ゲルニカの『改造への躍進』
*公式YouTubeが見つからないため
Amazonリンクで代用



●【チェット・ベイカー】 ジャズミュージシャン

(解説)
国士舘大学の応援団に入れて性根を叩き直してもらいたい様な、なよなよした声で唄う、人気トランペッター。

高木壮太著/焚書舎『荒唐無稽音楽事典』より引用


★★ハルカcomment★★

中性的でなよなよした歌い方にうっとりだ。夏の気怠い夕方にチェット・ベイカーは無性に似合う。
ソファに腰掛けて聴く『Chet Baker Sings 』。
片手にはCINZANOのグラス。というのはウソで、がぶ飲み麦茶。

女は忙しい。音楽聴くのはほとんど用事をしながらなんである。バタバタしてても麦茶でも、ジャズを聴いてりゃオシャレな気分になるってもんよ。

若い頃に、京都のバーやライブハウスでジャズを知った
当時のカレシが連れて行ってくれた北山のバー「アニーホール」や「エバンス」なんかはもうないだろうな。
そこで流れていたレコードジャケットを見てミュージシャンを知り、カレシがうるさく語るウンチクを聴き、知識を溜めた。

ネット検索なんか何もない。ましてや配信なんか無縁の時代。ジャズを聴くための場所を探して身を置き、昂揚する。そんな夜を過ごしてきた。

チェット・ベイカーが流れる薄明かりの中、時おりグラスの氷がカロンと鳴る。

今よりよっぽど艶っぽくて大人っぽいや。


▲YouTube:Chet Baker♪チャンネルより引用
But Not for Me
Chet Baker Sings 収録曲


第二夜も楽しんでいただけただろうか。
記事を書いた私自身が一番楽しんだかもしれない。

そうは言っても「荒唐無稽音楽事典」は友人のもの。
次の「番外編」を最後に、そろそろ返却しようと思う。


さて次回の「番外編」は、とある米国バンドが世界を席巻したキテレツな、もとい風変わりな曲を紹介しようと思う。

実はこの曲、今回の記事の最後に「オマケ」としてYouTubeのMVを載せていた。

ところがあまりに強烈すぎて、オマケのクセに、大滝詠一もチェット・ベイカーの印象もすべて消し去る威力を放ってしまったのだ。

そんなわけで泣く泣く今回の記事から除外したオマケの曲だが、このまま葬り去るのはあまりに惜しい。
というわけで、晴れて番外編で甦らせる。

ぜひお楽しみに。


Good night

▼こちらは記事中で紹介した『荒唐無稽音楽事典』(2014年/焚書舎)に約100項目が補強・加筆修正された完全版である。私は買う!