洞爺湖、湖畔の夏。
八月某日。久しぶりの早起きでなんとか6:55羽田発の飛行機に乗り込み、私は欠伸を繰り返しながら空の上にいた。
会社員の夏休みは短い。
向かう先は、北の大地、北海道。
一番の目的地は、数年前からいつか訪れたいと憧れていた洞爺湖だ。
新千歳空港に降り立ち、レンタカーに乗り込む。
霧雨が降って空気は肌寒い。長袖の上着を持ってきたことを確認し、ほっと安堵の息をついた。
途中、支笏湖やニセコに立ち寄り、可愛らしい小さな木彫りの熊を買ったり、恐ろしくでこぼこの山道をのぼった先にあるガーデンレストランでお昼を食べたりと、寄り道をしながら洞爺湖を目指す。
洞爺湖に到着したのは、午後2時過ぎだった。
天気予報ではしっかりめの雨の予報だったにも関わらず、奇跡的に天気は晴れ。
車を降りると、目の前には青い空と青い湖が広がっている。
はやる気持ちを抑えて、水辺へと向かう。
ざざ、ざざんと寄せては返す波。
湖のほとりに立つ大きなポプラの木。
波打ち際ではしゃぐ家族連れの声。
日差しは少し暑いが吹く風は涼やかで、カラッとした空気が心地よい。
一通り周辺の散策を終えて、チャシバクINNさんへチェックイン。
洞爺湖を目指した一番の理由は、ここに泊まって洞爺湖の朝も昼も夜も全部を味わいたかった、という一言に尽きる。
部屋に入った瞬間、窓の外に広がる洞爺湖に思わずため息が漏れた。夢にまでみたこの景色…。
お部屋のインテリアや置いてあるルームスプレーまですべてが素敵。
華美ではなく、ちょうどよい。すごく居心地がいい。
夜、日が暮れて真っ暗になってからも、窓の外からは波の音が聞こえてくる。
湯船に浸かるときも、電気を消して肌触りのよいベッドに潜り込んだあとも、ひとり波の音に耳を澄ませた。
旅先ではすぐに寝付ける時も、寝付けない時もあるのだけど、この日は0時を超える前にいつの間にか眠っていたみたい。
ざざ、ざざんと繰り返す波の音に包まれて、なんだかすごく温かく安心した気持ちで眠りについた。
洞爺湖のことを思い出すとき、いつもあの波の音が、真っ先に心のなかに浮かんでくる。
翌朝、目覚ましをかけてもいないのに夜明け前に目が覚めた。
外はぼんやりと薄明るく、カーテンを開けるとそこには変わらず静かな洞爺湖があった。
寝ている間に風が弱まったようで、波の音は微かに聞こえる程度。凪の朝。
そのあとしっかりと二度寝してしまい、次起きた時には今度は大粒の雨が湖面を叩いていた。
ゆっくりと起きて、ルイボスティーを淹れる。
雨の音がなんだか心地よくて、結局チェックアウトぎりぎりまでベッドの上で本を読むなどして過ごし。
宿を出る時には、雨は上がっていた。
オーナーの田中さんの人柄と、宿の前に広がる大きな洞爺湖に癒された二日間。
ひとつ分かったのは、晴れても雨が降っても、ここは変わらずどんな時も最高だってこと。
春には、湖畔で桜の花が咲くらしい。
きっと再訪したいとおもう大切な場所が、ひとつまた増えた。