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【混泳 第1回】 「学んだそばから未来を変えていく」 イノカの教育事業についてクロストーク
"混泳"とは
環境移送ベンチャー、イノカのオウンドメディアです。生き物好きという共通点があり違った専門領域を持つイノカに関わるメンバーが、クロストークを行いながらお互いへの理解を深めたり、新たな知見を探ります。
第1回
クロストーク
教育事業部長 松浦京佑
共同研究員 佐々木幸生
司会 イノカCDO 守屋輝一
学んだそばから未来を変えていく
司会:
記念すべき第1回のテーマは「学んだそばから未来を変えていく」です!
今日はイノカの教育の未来について、いろいろお話をしていただきたいと思っております。ではお二人の自己紹介をお願いします!
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松浦:
教育事業部長を務めている松浦京佑です。
イノカでは主に、小学生を対象とした「サンゴ礁ラボ®︎」をはじめとする教育プログラムの企画運営を行っています。最近は新しい内容のプログラムや、大人向けのコンテンツづくりにも取り組んでいます。
佐々木:
イノカで研究をしています。佐々木幸生です。松浦さんが運営している教育イベントや、ピートさん率いる研究事業を中心にお手伝いをしています。大学時代から海に関する研究を続けており、2024年の6月からは台湾でサンゴの研究を始める予定です。今日はどうぞよろしくお願いします。
イノカの環境教育が他と違うところは?
松浦:
僕たちはイノカの環境教育プログラムを「環境エデュテイメントプログラム」と呼んでいます。教育(Education)とエンターテインメント(Entertainment)を融合させた言葉で、退屈で難しそうなイメージのある環境について、楽しみながら学ぶことを一番大切にしています。
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イノカのイベントは、冒頭で子どもたちが”秘密研究機関イノカ”の見習い研究員になるところからスタートします。僕や佐々木くんは先輩研究員で、海を守るための仲間たちを探しているんです。すると子どもたちは海やいきものを救う一員になることを目指し、使命感やワクワクをもって参加してくれるんです。佐々木くんも先輩研究員(メインキャスト)として、秘密研究機関イノカでたくさんの見習い研究員たちを仲間にしてくれています。
佐々木:
そうですね…もうかれこれ2年間やっています。
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司会:
秘密研究機関イノカで取り組んでいる活動、プログラムにはどのようなものがあるんですか?
松浦:
「サンゴ礁ラボ®︎」という教育イベントが一番最初に始まったプログラムで、サンゴの魅力や面白さをたくさんの子どもたちに伝えています。他にもマングローブ生態系をテーマにした「マングローブラボ」、小型の水中ドローンを組み立てて操作する「海のエンジニアラボ」など、現時点で計5つくらいのコンテンツがあります。生き物の面白さに注目し、その生き物や環境が持つ環境問題についても学べる…そんなプログラムを提供しています。
佐々木:
やっぱりどのプログラムにも、水槽がその場にあるからできることがありますね。生きたサンゴを直接見る機会も、触れる機会もめったにないので…とてもいい機会が提供できているなと思います。
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イノカの環境教育が目指している世界とは
佐々木:
もちろんサンゴや環境問題についてより多くの子どもたちに知ってもらい、親しみを持ってもらうことも大切にしています。あとはプログラムに参加した子どもたちの中から、将来研究者になる子どもがひとりでも現れることを願っています。この思いに尽きます。
松浦:
私は「面白い!を原動力に世界を変える人を育てる」ことです。これはイノカの環境教育のコンセプトの一つでもあり、私自身の教育目標でもあります。
「これは面白い」「もっと知りたい」と感じるきっかけを多くの子どもたちに提供したい。そして子どもたちがそれを追求し続け、大人になっても「面白い」を原動力に活躍できる世界を創り出したいと思っています。
佐々木くんが言ってくれたのもそのカタチのひとつで、「イノカの環境教育が目指す世界」と、プログラムに参加するキャストそれぞれの思いが共鳴することは、今やっていることの素晴らしい点だなと思いますね。
佐々木くんは、もう何十回もサンゴ礁ラボをやってくれていますが…毎回プログラムで話す内容を変えてくるのを私も密かに楽しみにしています。彼は研究者ならではの視点を解説に取り入れたり、その場で子どもたちから出てくる素朴な疑問に深く向き合って答えてくれます。
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私も全体の雰囲気を目の前の子どもたちに合わせて変えたりはしますが…佐々木くんのようにアカデミックな視点からの深い掘り下げは特に印象的ですね。子どもたちの素朴な疑問が本質的なところを突いていることって多いんです。それにしっかり向き合って、既に分かっていることを伝えるだけでなく、まだ解明されていないことの探求の過程に子どもたちを巻き込むことが大切だと思うんです。「面白い!」という感覚をイノカの教育に関わるひとりが心に持ち、子どもたちにも伝えていくことで、世界を変える仲間を増やしていきたいです。
出張型と拠点型の違いとは
司会:
イノカの環境教育プログラムには出張型と拠点型の2種類がありますが、それらの違いはなんですか?
松浦:
出張型と拠点型の大きな違いは、プログラムの時間と開催場所のタイプです。出張型は、40分から1時間半の単発プログラムを、全国の商業施設やオフィスに水槽を持っていって行います。 一方拠点型は、各回2時間のプログラムになっていて、子どもたちにオフィスに来てもらいます。じっくり時間をかけて複数回にわたってできるからこそ、アウトプットまで行う深い学びを提供しています。
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佐々木:
最近、沖縄で初めて出張サンゴ礁ラボをやりました。沖縄の人にとってサンゴは身近な生き物だと思い込んでいましたが、意外にもサンゴについては詳しくない人や、中には普段海に行かない人もいて…会場に来た多くの人が「サンゴをほとんど見たことがない」と言っていたのには驚きました。
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これまで関東を中心にサンゴの大切さを伝えてきましたが、都心ではサンゴの存在がどこか遠い世界の話のように感じられがちでした。しかしサンゴが近くに存在する沖縄で、サンゴについて考える機会を地元の人たちに提供できたことで、今までとは異なる重みを感じることができました。まさに、本当に知ってほしい人たちに情報を伝えられたという感覚です。
松浦:
いいですね、サンゴが近くにあるからこそ伝えることがあるわけですね。
逆に、サンゴから離れた場所ならではの経験もあります。以前岐阜県でイベントを行ったときは、海のない所に「海が来た!」という体験を提供できました。
出張型なら、海から遠い地域にいる人々にも海の面白さや大切さを知るきっかけを作ることができる。そして、そのきっかけを作った後、拠点型でより深くサンゴについて好きになってもらえるような活動を目指していきたいと考えています。
司会:
拠点型だと、イノカの水槽や実験器具を使うことができるのも強みですね。
松浦:
そうですね。サンゴ礁、藻場、マングローブ、水生昆虫の棲む淡水域…様々な環境を再現した水槽があるので、じっくりと観察してもらうことができます。ラボが併設されているのも魅力ですね。
どちらが良いというのではなく、目指すゴールも違うと思います。出張型は既に生き物が好きな子どもたちも、まだそうでない子どもたちもみんなが楽しめるように。拠点型はそこからもう一歩踏み込んで…すでに生き物が好きな子どもたちにも新たな体験を提供できるような濃い内容を目指しています。イノカでの体験を通じて、自分の力でそれをもっと追求していきたいと感じてもらうことがゴールだと考えています。
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佐々木くんは、新しく子どもたちとやってみたいことってありますか?
佐々木:
子供どもたちに体験してもらいたいことは沢山あります。特定の研究テーマを深く掘り下げてみるアプローチも魅力的だなと。例えば月に1回くらいの頻度で同じ生物の成長を観察したり、実験の経過を長期にわたって追っていくようなプログラムも興味深いです。
司会:
去年行われた、日本科学未来館のサンゴ礁ラボは、従来の出張型とも拠点型とも、異なる内容でしたね。
松浦:
あれは一応は出張型ですが、新しくシチズンサイエンスの要素を取り入れていました。「子どもたちが行っていることが実際に研究に役立つ」子どもたちの活動が社会に貢献する可能性がある、とてもユニークなプログラムです。新しい体験を提供できた、とてもいいイベントでした!
佐々木:
シチズンサイエンスプログラムは、拠点型でもやっていきたいですね。より深い学びを提供して、研究者のような思考を育てて…将来的に研究の道に進み、その成果が我々の研究にも貢献するような未来を生み出せたらすごくいいですね。
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新しいコンセプト「地球のミライ」について
佐々木:
松浦さんに、イノカの環境教育の「新しいコンセプト」について聞きたいです。
松浦:
最近、サンゴ礁ラボのホームページがリニューアルされました!これまでのコンセプトは「『面白い!』が原動力の世界を変える人を育てる」でした。今回のリニューアルではそれをさらに進化させて、「自分の未来も、地球の未来も、学んだことから直ちに変えていく」になりました。世界を変えていく、という点は変わりませんが、「地球の未来」という要素を強調しています。
実は「世界を変える」ということには二つの意味を込めています。、一つは自分の世界が変わること、もう一つは自分が生み出したものが地球を変えていくことです。新しいコンセプトでは、この二つの側面をより具体的に言語化しました。
佐々木:
それを聞いて改めて考えさせられました。私自身も、サンゴ礁ラボを通じて、未来が変わったうちの一人です。大学入学当初は黒潮に関する研究を考えていましたが、イノカで研究と教育に従事していく中で、サンゴを研究テーマとして選ぶまでに心境が変化しました。
松浦:
佐々木くんが受けた影響について聞いて、自分の同じような体験を思い出しました。サンゴ礁ラボに関わり始めたのは約2年半前、前のオフィスで拠点型のサンゴ礁ラボが開催されたときです。「人生をかけてこれに取り組みたい」と思ってイノカに深く関るようになり、最終的に入社することになりました。
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あの空間が非常に強い影響力を持つものだからこそ、子どもたちに何をどうすればうまく伝わるか、コミュニケーションを常に考えるようになりました。これから新しいプログラムもどんどん生み出していきたいですね。インターン生にもぜひ好きな生き物や面白いと思うものをテーマに、企画を作ってほしいです!
佐々木:
イノカにいると、色々なチャンスがあると思います。やる気次第で事業を跨いでプロジェクトに参加したり、さまざまな人と出会うことができるのが大きな魅力だと思います。私自身、サンゴ礁ラボに参加するだけでなく研究事業にも関わり、研究を通じて新たな発見がありました。こうした経験は、イノカでなければ得られなかったと強く感じています。
環境教育の現在位置は
司会:
ここで、環境教育に関するいくつかの調査をみていただきたいと思います。
●一般の方々への調査で「環境教育を受けた人たちが、どれだけ意識に変化があったか」
意識や行動に変化があった:60%
特に変化はなかった:30%
●教育関係者への調査で「環境教育を行うにあたり活用しているもの」
ほとんどを占めたもの:教科書、インターネット上の映像資料
●環境教育に取り組む際に、地域NPOや民間企業との協力連携について
協力連携がない:47%(最多)
ここから見えるのは、自分たちで環境教育をやろうとしていても、二次情報を見せるという形に留まっているという状況です。
環境教育によって、意識や行動の変化があり得るということは言われています。環境教育は、まだまだ伸ばしていく必要性がありますが、実施側の運営ノウハウや資料がすごく不足している現況が見えたと思います。
イノカが立っている教育プログラムはとても重要になってきますね。出張型できっかけを得られる、学校外の時間で拠点型を行えば、深い学びを得られるのが強みなので。こうしたデータから、お二人が改めて思うことはありますでしょうか。
松浦:
イノカの環境教育で、調査から見えた問題を網羅的に解決できると思います!二次情報を見せるしかない点については…そもそも環境問題に本質的に取り組むためには、子どもたちだけでなく大人も環境問題を自分ごととして捉える必要があると思います。
例えば、ビーチに流れ着く大量のゴミを直接見るのと、ニュースで見聞きするのでは、得られる課題意識には大きな差があるのではないでしょうか。イノカでは、環境移送技術を用いて、海の環境をどこにでも再現して、サンゴを直接見たり触ったり…五感を使って学ぶことできると思います。座学だけでなく実際に本物を見て感じることが、自分ごととして捉え社会課題の解決に向けて動き出す重要な第一歩になると信じています。
佐々木:
イノカの環境教育について聞かれると難しいですが…。小学校の理科の授業のことを思い出しました。当時の先生がちょっと変わった人で、教科書を使わずに、全てを実験で教えるという独特の方法を取っていました。この方法から、実際に目の前で物事を見せられることの大切さや、教科書で読む内容と実際の様子が異なることもあると理解して、生の情報がいかに貴重で印象に残るかを知りました。
佐々木:
サンゴの美しさについても、実際に見ると想像と異なることがあります。光がないと美しく見えなかったり、思っていたほど鮮やかでなかったり。このように、リアルとイメージの差を経験することが、環境教育の意義の一つだと思います。海を訪れた時、実際にゴミが少ない、あるいは多いと感じることで、その場でしか得られないリアルな理解が生まれます。この経験が強い印象を残し、人々の行動や意識に変化をもたらす可能性があると考えています。
松浦:
そういう体験がいかに大切かは理解できるものの、先生たちのリソース不足や過密なカリキュラムで、時間割に余裕がないというのは現場でよく耳にします。
そこでイノカができることは、学校教育の外で私たちが情報を届けることです。イノカのイベントを通じて、休日や長期休みなど学校以外の時間を利用して新しい体験を提供して行きたいです。
学校教育が不十分だとは思っていません。現状の教育システムの中では、役割分担が効果的だと思います。私たちのような企業はある程度自由に動けるからこそ、その点をもっと活用できれば良いと思います。
司会:
他にも「いつ、環境教育に接したら良いでしょう」という調査結果では、「常にいつでも」が30%で最も多く、「小学生の頃」が28%と続きます。ここから環境教育の機会については、幅広いタイミングが求められていることがわかります。
小学生に伝えることは重要という点は理解していますが、大人に対しても環境教育を伝えることは有効だと思います。環境教育を「サードプレイス」として、人々が普段訪れる場所で提供することの需要は非常に高いと考えられます。大人も、普段行く場所であれば環境教育に触れる機会が増えるでしょう。特に、そういった場所には別の目的で訪れているため、そこで環境教育に出会えるなら、より納得感を持って受け入れられる活動だと私は感じています。
混泳第1回のイノカの教育事業については、これまであまり聞かなかった、掘り下げられていなかった部分も、たくさん掘り下げられたと思っていて、濃密な40分間だと思いました。松浦さんと佐々木さん、ありがとうございました。
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