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7つの『ハイパー神社』シリーズについての解説テキスト

『ハイパー神社』シリーズは作者の僕でも把握しきれないほどの非常に複雑な作品展開を見せています。関連する7つの作品をここで一挙解説します。『ハイパー神社』作品世界の理解の足しになればと思います。



①ハイパー神社 NFT

https://www.transformart.xyz/exhibition/hypershrine-2023 
(こちらのサイトでNFTを閲覧・購入できます)

15種類のデジタル拡張子をモチーフとしたNFTシリーズです。(jpg, png, gif, mov, xls, zip, pdf, html, ppt, obj, doc, mp3, svg, txt, exe)の15種類x30色のキャラクターたちは、神祇信仰になぞらえ、デジタル拡張子のカミとして立ち現れます。それぞれのキャラクターは②のオンライン神社に祀ることができ、参拝回数/レベルによって明神→大明神→大神と3段階に進化します。

あらゆる自然信仰において、神や精霊は通常目に見えない存在であり、現実の『依代』に宿る『イメージ』です。それは火や水や森、または死者や動物の魂のイメージが依代となる物体や人に宿るとされています。

『信仰』は『信じるか信じないか』についての話題となることが多いですが、それよりも重要なのは『イメージ=想像力』によって現実と超現実を繋ぐためのシステム/経路であるということです。シュルレアリスムの『シュルレアル=超現実』とは、現実の濃度をより濃くしたもの、という意味であり、決して非現実という意味ではありません。

例えば仏教においては釈迦が存在していたという現実があり、大乗仏教では人々がそれを拡張し釈迦の生きた時間軸以外にも様々な仏を『想像力によって』生み出しました。シュルレアリスムも仏教や神祇信仰も、『想像力によって』現実を超現実的なものに再構築し、現実の濃度を深めるものだと僕は考えました。また、jpgやpngなどのデジタルイメージは、PCと繋がった『ディスプレイ』によってかろうじて我々の目の前に現れますが、ディスプレイがもしもなかったらその存在は確認できず『PCによる想像上の存在』にすぎないといえます。

NFT/ブロックチェーンの『デジタルデータを複数人により承認し存在を固定する技術』は『信用』の技術であり、これは多くの人が同じ想像力の経路を辿りカミや仏を存在させる『信仰』のあり方と非常に近いものだと考えています。それらは『現実に存在しないものを存在させるための技術』なのではないでしょうか。


②ハイパーオンライン神社

https://hypershrine.transformart.xyz/

の『ハイパー神社』シリーズのNFTを購入したユーザーは、オンラインのURLにアクセスしてNFTの入ったウォレットでログインすることで、持っているNFT(拡張子のカミ)をオンライン神社に祀ることができます。神社に祀られたカミにはクリックすることで参拝することができ、10回の参拝につきカミのレベルが1上がります。

カミはレベル30で明神→大明神に、レベル100で大明神→大御神に進化します。一つのアカウントから参拝できる回数は一日一回ですが、それぞれのオンライン神社には独自のURLが生成され、NFTを持っていない人も参拝できるため、URLをSNSなどで拡散することにより、たくさんの人に参拝してもらえます。
(以下は僕の持っている神社です。ぜひ参拝してみて下さい。)
https://hypershrine.transformart.xyz/shrine/cllg1ljc60000l908qo4zcp9p

NFTの特徴のひとつとして、複数のコンテンツを跨ぐことができるという点があります。例えば、ひとつのNFTが現実でポイントカードとして機能し、オンラインゲームのレベルを現実のポイントで稼ぐ、というようなものです。これは社会的に見ると大企業中心のサービスとは全く違った、小さなコンテンツを跨ぐようなサービスが展開でき、地方自治体や個人がよりアクティブに活動できるチャンスになるかもしれません。また、ゲーム的に考えるとこのような『マルチバース』的な展開は、例えば『フォートナイト』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』のような、あらゆるゲームのIPの垣根を超えて行き来するようなコンテンツがNFTととても相性が良いです。『ハイパー神社』シリーズではその一歩目として、ひとつのNFTが複数の意味を持つ展開を目指しており、その第一弾がこの『オンライン神社』です。

③ハイパー神ミラー

このシリーズは『ハイパー神社』のNFTに先駆けて制作された、最初のハイパー神社シリーズの作品です。古くから神器として使われてきた「鏡」をモチーフにしたデジタル・ペインティングを液晶ディスプレイへのUV印刷で施し、見る角度によって3段階にメタモルフォーゼする映像で、「拡張子のカミ」のキャラクターを表現しました。

現代におけるディスプレイの存在は、あらゆるデジタルデータを可視化するための「窓」として機能しています。「現実世界に存在しない、向こう側の世界を覗き見る道具」としてのディスプレイは、神祗信仰における「鏡」の呪術的な存在とリンクしています。神祗信仰ではもとより、西洋においても「鏡の国のアリス」に代表されるように、世界的に鏡という存在は「向こう側の世界」へアクセスする道具として扱われており、現代ではデジタルツインを「ミラーワールド」と呼ぶように、デジタルなもう一つの世界とディスプレイ/鏡というモチーフは接続され、呪術的な意味合いを付与します。

祀られているデジタル拡張子のカミはディスプレイ(鏡)に映る映像として表現されますが、映し出されたキャラクターは鑑賞者が見る方向により3段階にメタモルフォーゼします。手塚治虫「火の鳥」における「ムーピー」をはじめとして、手塚作品にはディズニーのアニメーションから大いに影響を受けたさまざまにメタモルフォーゼするキャラクターが描かれ、これらはウルトラマンなどの「変身(メタモルフォーゼ)」ヒーロー作品などを経て、90年代以降は「ポケモン」や「たまごっち」など、キャラクターの「進化」として定着したキャラクター表現となりました。

これは遡れば、神仏習合下の日本においてカミが仏の変化した姿であるという「本地垂迹」のありかたや、観音菩薩の33変化観音などに遡ることができます。これらのさらに元を辿ると、ヴェーダの宗教/ヒンドゥー教におけるヴィシュヌ神がさまざまな姿になり現れる「アヴァターラ」に辿り着きます。このアヴァターラは、現代のメタバースなどオンライン上で自らが乗り移るキャラクターをさす「アバター」の語源となっています。

④2Dメタバース『ハイパー神社(祭)』

https://matsuri.hypershrine.transformart.xyz/

①NFT『ハイパー神社』シリーズを持っている人だけがログインできる2Dメタバースです。NFTの所有者は自分が持っているカミをアバターとして使用してログインでき、アバター同士は『5・7・5』のひらがなの『うた』のみで会話することができます。プレイヤーはあ『うた』でコミュニケーションをとりながら、さまざまな『ケガレ(ウィルス)』に感染し、いろいろなケガレを発見し、コレクションすることを目的としています。⑤⑥の会期中はそれぞれの作品と連動しており、8月現在は⑤の鬼から感染する『オニケガレ』と⑥の蛇から感染する『ヘビケガレ』が登場しています。

メタバースの定義とは一体なんでしょう。僕は『ゲーム』的なもののうち『勝敗』より『コミュニケーション』を重視するもの、と考えています。
現実側でディスプレイの向こう側の存在を操作する以上、それはまず『ゲームである』と考えています。巷では『メタバース』は高精細にリアルでなければいけないと言わんばかりに、3Dのメタバースばかりが目立ちますが、本当にそうでしょうか。現実が3Dなのにメタ世界もリアルな3Dで疲れてしまわないでしょうか。というわけでひとつ次元を落として2Dのメタバースを作ることにしました。これがメタバースではないという人もいるでしょうが、気にしないことにしました。


⑤SusHi Tech Square『ハイパー神社(鬼)』

https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/humannature/

『ハイパー神社』シリーズ2つめのメタバースを含むインスタレーション展示であり、④、⑥の作品と連動しています。東京都主催『SusHi Tech Square』にて9/23まで展示しています。入場無料です。

鑑賞者は神社を模したインスタレーション空間で東京都のマンホールの形をした『茅の輪』のゲートをくぐり、お賽銭箱のようなコントローラーを操作してとなります。プレイヤーはマイクに向かって声を出すことで『オニケガレ』を撒き散らし、④からログインしてきた他のプレイヤーを鬼に変えてしまうことができます。

また、フィールドには参拝できるポイントがいくつかあり、中央の拝殿や道祖神、霊木など、をまわって参拝することができます。中央の拝殿に参拝するとさまざまな5・7・5の(意味の崩壊している場合が多い)祝詞を聞くことができますが、この祝詞は後述の通り、⑥『ハイパー神社(蛇)』の鑑賞者が制作しています。

炎上、放射能、ウィルスなど、科学を中心とした現代になっても、目に見えないものとの付き合い方は日本という国において常に隣り合わせにあるイシューなのではないでしょうか。それは平安時代に起こった『ケガレ忌避』の流行と通づるものがあります。目に見えないものをただ忌避し、迷信する様子は呪術的で、滑稽で、魅力的でもありながら愚かであり、それは現代のオンラインでの炎上の様子や、放射能やウィルスに対してのパニックにも共通します。我々はそういった見えないものとどのように付き合っていくべきか、その答えは科学にはないような気がしています。皆が怖がる『鬼』が、本当に恐ろしい『異物』なのかどうかを、再度検証する必要があるでしょう。

⑥オペラシティICC『ハイパー神社(蛇)』


https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2024/icc-annual-2024-faraway-so-close/

東京オペラシティにあるNTTのミュージアム、ICCにて11/10まで展示されています。

鑑賞者は中央のタッチパネルを操作して、『パックマン』や『スネークゲーム』のように、蛇のキャラクターにひらがなの文字を食べさせて、5・7・5の祝詞を作成します。これを画面中心のマンホールに収めることで神社に祝詞を奉納し、奉納された祝詞は④『ハイパー神社(祭)』や⑤『ハイパー神社(鬼)』の参拝者に読まれます。⑤『ハイパー神社(鬼)』は外宮、⑥『ハイパー神社(蛇)』は内宮や奥院を意味しており、『ハイパー神社(鬼)』では外からの参拝をし、『ハイパー神社(蛇)』では秘密裏に祝詞の神祇を執り行います。

古来より蛇のとぐろを巻く様子は、山に準えられ山岳信仰のモチーフとされてきました。また、現在でも出雲で続く神迎祭では、海の向こうの神々を迎え入れる先導としてウミヘビのモチーフが使われるなど、海や外界からの象徴としても崇められてきました。ヘビはあらゆる自然のカミの象徴であり、外側を迎え入れ、内側と繋ぐ象徴でもありました。

この作品ではICCの倉庫に保管されていた、古いPCやタブレット、電子機器を『依代』として祀っています。『ハイパー神社』シリーズが自然信仰でありながら、デジタルデータ信仰であるために、デジタルデータの依代である『ハードウェア』を祀ることにしました。


⑦リアル神社

2025年の春、直島の旅館『ろ霞』に『ハイパー神社』の神々を祀るために、神社を模したインスタレーション空間を立ち上げる予定です。『ハイパー神社』シリーズの最終地点となります。神社という建造物は、仏教が伝来するまでは存在しなかったという説があります。仏教伝来前の神祗信仰は、『祭り・儀式』を中心としたものであり、その度に立ち現れ、おもに自然や死者の霊たちとのコミュニケーションを図ったと言われています。立ち現れては消えていくという自然崇拝的なものに、不動の場所を与えたのは仏教の影響が大きいでしょう。

そんな神仏習合した状態の日本の神祗信仰は、デジタルデータとの相性が非常に良いと考えています。デジタルデータも、依代となる『ハードウェア』がなければ存在することができず、神器としての『ディスプレイ』がなければ、覗き見ることもできません。そんなデジタルのカミを祀る神社はどんなものになるのか、NFTという『祝詞』をどのように使って神社を立ち上げることができるか、試行錯誤の中にいます。どうぞお楽しみに。


ハイパー神社シリーズ

Direction/Artworks : Takakurakazuki
技術協力:TRANSFORM ART by YUMEMI Inc.
Art Technologist: Tadaaki Sakamoto
Planner:Rio Yoshida
Producer : Shigeo Goto
Supporter:udon1GO/naritai encho/uni
SpecialThanks:ろ霞/masako shiba/サンエムカラー/ガミテック

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