母を想う⑮からすのお宿
40年ほど前のこと、高校生の頃の話です
「ただいま~」
奥の台所から聞こえる「おかえりなさ~い」の声。
おかあさんの顔を見てもう一度
「ただいま~」
[おかえりなさ~い」
「お腹空いた~、ひとつ食べていい?」
返事を待たずにつまみぐい
トントントンと階段を上がり自分の部屋へ
かばんを置いて着かえましょ
開けっ放しの障子戸
電器をつけましょ
んんっ⁉
んんっ⁉⁉
んんっ⁉⁉⁉
電器のかさの上になにか・・・なにか・・・なにか
ねこ~~⁉⁉⁉
障子戸をそっとそっとしずかにしずかになるべく早く閉めました
心臓バクバクです
なんでここにいるの?
なんで2階のわたしの部屋にいるの?
なんで電器のかさの上にいるの?
なんで なんで なんで???
わたし、そんなにねこちゃん、得意でないのです。。
階段をなるべく静かになるべく速く下りました。
「おかあさん、わたしの部屋にねこがいる!!」
「えっ!!!」
実はね、おかあさんはね、ねこが大の大の大の苦手なんです。
テレビに映ったらテレビを消しちゃうんです。
作家の向田邦子さんが大好きなのですが、向田さんの猫好きに共感できないことに困っているんです。
子どもの頃のトラウマが原因らしいです。
それなのに、
「えっ!!!」
の言葉のあと、すぐさま階段をあがり、
ねこのいるわたしの部屋へ突入していったのす。
かわいい娘のためならば母は強しです。
懐中電灯を照らす母、
「ねこじゃないよ、からすだよ」
頭の中にはてながとびかいます??????
それと同時に恐怖です!!!!!
からすって、、、、
そんなことってありますか!?
声もでないわたしに母は、冷静にひとこと
「今日は泊めてあげるよ」
レジャーシートを全部持ってくるように指示し、
部屋からどうしても取ってきて欲しいものはあるかと聞きました。
シートを持っていくと
「たかこはいいから下にいきなさい」
障子戸を閉め、部屋に入っていきました。
母がからすにやっつけられはしないかとわたしは気が気ではありません。
どうしても取ってきて欲しいものはもう出してありました。
何を頼んだのでしょうね~
からすがわたしの家に泊っている
からすがわたしの部屋に泊っている
わたしの部屋は障子戸、
体当たりして破って出てきたらどうしよう、、
わたしの不安をよそに
「あれは、子どものからすだね、
間違ってはいっちゃったんだねえ、
洗濯ものを取り込んだあと、
窓開けっ放しだったんだねえ、
朝になって明るくなれば出ていくよ、
泊めてくれてありがとうって、
からすの恩返しがあるかもよ」
鶴はきれいな羽で織物を作ってくれるけど、
からすの恩返しって。。。
翌朝、わたしが起きたときにはもういつものわたしの部屋に戻っていました。
早起きの母がフン対策で敷き詰めてくれたシートも新聞紙片付けてくれていました。
「からすの恩返しあったよ!
うんをいっぱい落としていったよ!」
運をいっぱい置いて行ってくれたようです。
自分がおかあさんになって、この日のことを想うのです。
わたし、同じことできるかなあって、
幸い、からすが家の中に入ることもなく、子どもたちは成長し巣立っていきました。
母と同じように戦える(!?)自信がなかったので、
これもまた運が良かったのかな、
からすの運返しいただきました
からすが飛ぶ空よりももっともっと高いところに
いるであろう母との想い出です。
おかあさ~~ん おかあさ~ん
からすの子のように呼んでいます。。