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欧州でちまきを作りながら2024年を振り返る

2024年がもうすぐ終わろうとしている。
日本の様子をSNSで見ているとM-1が終わったあたりからもう年の瀬ムードだ。
欧州で迎える年末が5回目になり、クリスマスが過ぎたというのに未だに開いているクリスマスマーケットへの疑問をぬぐえないまま、もうかれこれ随分長いこと日本の年末年始のホクホクした感じを味わえていない。
今年も早かったなと考えると同時に、私は今年何を成し遂げただろうかということに思いが派生する。

秋口までにかけて7万字ほどの中編小説を書き上げて、webで応募できる文学賞に投じてみた。
これが個人的な今年の一番の成し遂げたことな気がする。
元から小説は読むのが好きで、10代の頃から国内外の作品を読み耽ってきた。通勤通学に時間がかかる生活が長かったので、その時間潰して始めたら意外とハマってしまったのだった。ただそのうち自分の好みもわかるようになってきて、段々ともう読むべきものがないような気がしてしまって、日本を出てきたあたりからあまり本を読まなくなった。日本の書籍が手に入りづらいというのもある。kindleなんかも使ってはいるがやはり紙がいい、という言い訳もある。
読むべきものがなくなってしまったような気がした20代の後半、ふと頭の中に小説の書き出しのような一文が浮かんだ。きっと物語になるような気がしてメモに残していたのを、今年の春先に日本へ出張に行く飛行機の中で手持ち無沙汰にiphoneの中身整理をしている時に見つけた。そこから4ヶ月くらいかけてせっせと書き続けたら一応一つの形になった。一つの創作を完結させることができたのは初めての体験で、10月に応募ボタンのクリックをしたとき、えもいわれぬ達成感を抱いた。
読みたいものがないのなら自分で作ればいい。自信をもってそう強く言えるようになれればいい。現時点は結果を待っている。

何の気なしに作ったちまきが周りの人に好評だった。
読みたいものがなければ自分で作るしかない、という前段と同じで、食べたいものが簡単にアクセスできないなら自分で作ればいい。日本を離れ、日本人が多くない地域にいると、食でも困ることは多い。日本食は人気だがこちらにあるそれは、特別高い金を払わない限り基本的にはフェイクだ。だから何か食べたいものがある時には、自分で作らないと心と腹の双方を満たすことはできない。労を厭わず食材を手に入れて、作って、日々試行錯誤していると、日本にいたときには対極にいて心の中で小馬鹿にしていた「丁寧な暮らし」の入口に立っている自分に気が付いて寒気がする。
ただ料理は、当選するかもわからない、世間に認められるかもわからない小説を書くのとちがって、こちらは同居人や周囲の人たちが都度感想をくれるので、ダイレクトにウケがわかって面白い。
中でも今年一番だったのが、ちまきだ。これは正確には日本食ではないけれども、まあ、おこわだと思えば同じようなものだろう。
ということで年の瀬ムードの日本に嫉妬する気持ちを抱きながら、こちらも時間をかけて何かハッピーなことをしたという満足感を得るために12月29日の日曜日、同居人には理解できないであろうそんな脈略でちまき・リバイバルを作った(自己満レシピ後掲)
もち米や椎茸、タケノコあたりはアジア系のスーパーで頑張って探した。ただ、重要なポイントである竹の皮が今回は手に入らなかった。竹の皮のないちまきは、ほうれん草のない家系ラーメンであり、餃子がない王将だ。「それがなけりゃダメなのよ」というアイテムだと思っているが、背に腹は代えられない。足りなくたって物事を進めないといけないときはあるのだ。

なけりゃダメなのよと言えば、今年は仕事上の相棒の退職や、上司の突然死といった今まで経験したことのない事態に遭遇した。
残った者は残った者として仕事も生活も続けていかなくてはならない。私の心の中には小さくない穴があいているが、前者も後者もいなくなってしまっても物事は進んでいく。それって本当なんだということを身をもって実感してしまった。
前者は年明けのまだエンジンがかかりきっていない頃に訪れた。相棒と今年はどんな風に仕事をしていこうかと思って楽しみにしていた矢先のことで、そのことを告げられた日の帰り、私はガソリンスタンドで煙草を買い凍てつく寒さの中で虚空に煙を吐いてぼんやり眺めた。長いことやめていた煙草癖がそこからまた再開されてしまい、自分を律しきれないまま年末まで「次が最後のひと箱」と思いながらいそいそとガソリンスタンドで次のパックを買う日々が続いている。自分の弱さに情けない気持ちになるが何か逃げを求めている。
その煙草癖を止めるのももう諦め始めていたころに、後者が起きた。連絡がつかないことを不審に思い、会社に預けてあった合鍵を持って同僚と上司のアパートに突入したところ、一番奥の部屋で倒れているのを見つけた。救急車を呼び、同乗してきたドクターが「もう助かりません」と告げたときには、こんなことが現実に起きるのかと力が抜けてしまった。つい数日前には自分の車に乗せて顧客との会食に連れ立っていた人が、こんな形で人生幕引くとは思ってもいなかった。ご家族もすぐに来欧され、その後の日々もちろん一番つらいのはご家族だが、個人的にもかなり気が参ってしまうような日々だった。

当たり前がいつまでも続くわけではないのだという、こすり続けられて安っぽく感じるような言葉に真実を見つけた一年かもしれない。生きている自分は、目の前の当たり前に感謝する気持ちを、そしてその気持ちのできる限りのアウトプットを心がけようというのが来年の抱負だ。「丁寧な暮らし」教の経典に書いてありそうだけれども、後悔のないようしたいならまあ自分の思う一番の誠実さで動けばいい、という宗教的フリーランスの心持ちでやっていこうと思ったりする2024年の暮れだ。

(おまけ)レシピ
【材料】
もち米:2合
干し椎茸:3枚
豚バラ:200g
タケノコ:100g
人参:1本くらい
枝豆:1/2カップ分くらい
うずらの卵:15個
調味液:日本酒大さじ2、みりん大さじ1.5、しょうゆ大さじ1.5、砂糖大さじ1
かつおだし:200ml
椎茸戻し汁:100ml

【作り方】
①もち米をちゃちゃっと洗い数時間水につけたら、ザルに上げて水分を切る
②人肌の水で干し椎茸を戻す。かつおだしを200mlとる。後刻椎茸の戻し汁100mlと併せて300mlにする
③豚バラ、タケノコ、人参、戻した椎茸を細切りにする
④うずらの卵を茹でる(沸騰してから3分半くらい)
⑤フライパンで③の豚バラを炒め、油が出てきたらタケノコ、人参、椎茸も加えて炒め合わせる
⑥かつおだしと椎茸戻し汁を合わせた300mlと、調味液を加えて中火で煮る。5分ほど煮たらもち米と枝豆を加えなじませる。水分がなくなってきたら容器にあけ粗熱を取る
⑦竹皮の代わりのクッキングシートに⑥とうずらの卵を包む(クッキングシートは30cm×10cmにして、2回ほど三角形に折って袋状にして、そこに詰める)
⑧フライパンに水を1cmほど張り、その上に皿を置く。その皿に⑦を並べフタをして中火で20分、弱火で10分蒸す



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