見出し画像

【インクルーシブ・リーダーシップ】IL研究の祖とも言える論文:Nembhard & Edmondson (2006)

今回ご紹介するのは、インクルーシブ・リーダーシップ(正確には、Leader Inclusiveness:リーダーの包摂性という概念)の初期研究として、多くの論文で参照される以下を取り上げます。

Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 27(7), 941-966.

どんな論文?

Leader Inclusivenessを概念として最初に編み出したと言われる論文で、23の新生児集中治療室(NICU)に勤めるスタッフ1440名に対する量的研究です。医療分野における専門スタッフの地位、Leader Inclusiveness、心理的安全性、そして品質改善業務への関与、という変数間の関係を明らかにしています。

Nembhard & Edmondson (2006) P.949

医者、技師、看護師、事務スタッフといった各専門職には階層・地位が存在するものの、Leader Inclusiveness(LI)が、心理的安全性に影響を与えるともに、地位の差が職場の心理的安全性へ与える負の影響を調整する、という結果を導いています。また、心理的安全性を媒介して、LIが品質改善業務への関与にも影響を与えることも示しました。

つまり、上司がLIを発揮することで、低い地位の部下は上司からサポートされていると感じると共に、上司が部下を重要視していることを信じられるため、結果として職場の心理的安全性が高まる、さらに、部下による品質改善業務への関与が強まる、ということです。


この論文のどこがすごいのか?

ずばり、LIを概念化し、それを測るための設問を導いたことです。筆者らは、LIを「他者の貢献や挑戦を奨励し、承認を示すリーダーの言動」と定義し、以下の3つの設問を構築しました。

  • ‘‘NICU physician leadership encourages nurses to take initiative’’

  • ‘‘Physicians ask for the input of team members that belong to other professional groups’’

  • ‘‘Physicians do not value the opinion of others equally’


先日、以下の投稿で紹介したCarmeliらのインクルーシブ・リーダーシップの3つの概念(開放性:Openness、近接性:Accesibility、有効性:Availability)も、NembhardとEdmondsonのLIの概念から導かれたと言われています。いわば、インクルーシブ・リーダーシップの祖、とも言えるわけです。


実は、私の修士論文(代わりの、リーダーシップ報告書と言います)でも、この3指標を使いました。自分の理論的基盤となる論文が、この指標を「インクルーシブ・リーダーシップ」として用いていたためです。Nembhardさんに英語でラブレターを送り、「使っていいよ!」と快諾いただいたのでした。
(ただし、本格的に使用するには、適切な翻訳手続きを踏まなくてはならないことを後で知りました)


Leader Inclusiveness?Inclusive Leadership?

インクルーシブ・リーダーシップ研究において、必ずと言ってもいいほど登場するこの論文ですが、お気づきの通り、扱っているのは、「Leader Inclusiveness(リーダーの包摂性)」です。

ほかにも、「Leader Inclusion」という言葉も、先行研究には登場します。これらの似たような概念は、特に違いもなく使われている、というのが現状だったりします。例えば、Nembhard & Edmondsonの3設問を使いながらも、「インクルーシブ・リーダーシップ」と呼んでいる論文もあります。

最近は、Leader Inclusivenessよりも、Inclusive Leadershipの方がよくつかわれますが、これはCarmeliらの指標の影響も大きいと想像します。


心理的安全性に効く、IL(LI)

最近、バズワード化していて、誰もが名前だけは聞いたことがある、というほどよく聞く「心理的安全性」ですが、変革型リーダーシップや倫理的リーダーシップなど、様々な支援的リーダーシップによって間接的に高められることが知られています。

Newman et al.(2017)は、心理的安全性に関する44の実証研究をまとめたレビュー論文

その中でも、LIが直接的に心理的安全性に効く、というのは注目に値します。私の修士論文でも、統計的に両者の影響関係は高く出ました(詳細はいつかまた)。

(このレビュー論文が出てから5年が経つので、さらに研究も進んでいるかもしれません・・・)

世間を騒がせている心理的安全性、これを高め得るリーダーシップとして、Leader Inclusiveness/インクルーシブ・リーダーシップの注目度がさらに高まっていくだろうと個人的には考えています。


参考文献:

  • Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 27(7), 941-966.

  • Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human resource management review, 27(3), 521-535.




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?