【インクルージョン】職場レベルのインクルージョンを測定する尺度(Chung et al., 2020)
引き続き、インクルージョンについて見ていきたいと思います。今回は、職場レベルのインクルージョン(Work Group Inclusion)に関する尺度を開発した、Chung et al. (2020)を紹介します。
どんな論文?
Shore et al. (2011)のインクルージョン概念をベースに、職場インクルージョン(Work Group Inclusion:WGI)の10設問を作成し、その妥当性を検証した研究論文です。
著者らの問題意識は、これまでにもインクルージョンを測定する尺度はあったものの、理論的論拠が限定的で、妥当性の検証が甘かった点にありました。そこで、Shoreらのインクルージョンを規定する2つの概念、BelongingnessとUniquenessの2因子から構成される設問を作成し、確証的因子分析を行った結果、設問としての信頼性と妥当性が十分に認められました。
その上で、WGIの規定要因と成果要因を分析を実施したところ、ダイバーシティ風土とリーダー・インクルーシブネスが影響を与える規定要因ということが示されると共に、援助行動(helping)、創造性、業績が成果要因であることが示されました。
各概念、とくにWGIを高め得る「規定要因」については、少し詳しめに補足します。
Work Group Inclusionの規定要因
規定要因というのは、影響を与える要素です。つまり、WGIを高めたり低めたりする要因、と言い換えられます。上の図で左側に記載のある、3つの規定要因について補足します。
Overall Justiceとは、従業員個々人が体験する、組織内での包括的な公正性を指し、組織におけるすべての社会的集団に対する公平な対応を意味します。Ambrose & Schminke(2009)で用いられた指標が使われました。
Diversity Climateとは、従業員が知覚する、組織における多様性推進に関する方針や施策、報酬の程度を指し、先行研究では、職務満足や離職意思の低下に繋がると言われています。McKay et al. (2008)の4指標が使われたようです。
Leader Inclusivenessは、他の投稿でも紹介してきたので説明は省略。Nembhard & Edmondson(2006)で開発された指標を使用しています。
これら3つの概念がWGIに影響するであろうという仮説を立て、806名の大学関係者(教授やスタッフ)から回答を収集し(40%程度の回収率)、重回帰分析を行ったところ、Overall Justiceのみ有意差がなく、Diversity ClimateとLeader Inclusivenessには有意な正の影響が示されました。
Work Group Inclusionの指標
こうしたWGIの規定要因・成果要因を示した点もさることながら、最も大きな貢献は、確証的因子分析などを用いながら、WGIの尺度開発を行った点にあると考えます。
感じたこと
こうした尺度開発は、さまざまな調査や丁寧な分析、多くのサンプル数を必要とするため、なかなか大変です。しかし、偉大なる先人がこうした指標を開発してくれることで、後に続く研究者が、襷をつなぐように活かせる。
研究とは、まるで駅伝のようなものだと感じます。誰が受け取ってくれるかわからない襷、ではありますが、、、。
参考文献:
Ambrose, M. L., & Schminke, M. (2009). The role of overall justice judgments in organizational justice research: a test of mediation. Journal of applied psychology, 94(2), 491.