【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがインクルージョンによる組織市民行動への有効性を高める(Kuknor et al., 2021)
インクルーシブ・リーダーシップやインクルージョンに関する論文をいくつも出している、インドの研究者による文献です。
どんな論文?
この論文は、COVID-19のパンデミックが職場環境に与える影響において、組織のインクルージョン(OI)と、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)がどのように組織の成果に影響するかを調査したインドの研究に関するものです。
研究は、2段階に分けて行われています。
まず、専門家20名に対するインタビューを通じた質的分析により、既存の概念を拡張した設問を作成しました。
続いて、既存の概念を測定する設問+専門家インタビューの結果を踏まえた設問による量的分析です。インドのサービス業の従業員113名を対象に行われ、量的データを用いて分析されました。
以下がモデル図です。
結果として、OIが従業員の組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior:OCB)や、組織ベースの自尊心(Organization Based Self Esteem:OBSE)にプラスの影響を与えることが示されました。
また、ILがOIとOCBの関係を強化する調整効果も示されましたが、OIとOBSEの関係においては調整効果が見られなかった、という結果でした。
組織市民行動(OCB)と、組織ベースの自尊心(OBSE)
ここで、OCBとOBSEに関して補足します。
OCB(組織市民行動):
OCBとは、従業員が正式な報酬を受けることなく行う、自発的で利他的な行動を指します。例えば、同僚を助ける利他主義、組織のルールを守る良心性、不便に対する忍耐を示すスポーツマンシップ、組織のガバナンス活動への参加などが考えられます。
OCBは、従業員の協力や職場の雰囲気を向上させ、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが研究されてきました。また、インクルージョン研究においても、インクルージョンがOCBに影響を与えることも示されています。
OBSE(組織ベースの自尊心):
OBSEは、自分自身が組織の一部として価値がある、と感じる度合いを指します。高いOBSEは、従業員が自分の役割に誇りを持ち、組織に対して強い帰属意識を持つとされ、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、組織の成果や効率にプラスの影響を与えるようです。
著者らは、組織のインクルーシブな環境は、従業員のOBSEを向上させる要因となると研究レビューから整理しています。逆に、排除(Exclusion)の高い環境だと、組織における自尊心は低くなる、と整理しました。
研究の結果から、
組織におけるインクルージョンは、OCBやOBSEを高めること、
そしてILがインクルージョン⇒OCBの関係を強化すること
が定量的に示されています。
これにより、インクルージョンやILの重要性がまた一つ実証されたことになります。
補足:本研究で扱われたインクルージョン(OI)には、Nishii(2013)のインクルーシブな風土尺度が用いられています。
感じたこと
ILは、インクルージョンを促進するリーダーシップと説明されることが多いのですが、意外と、ILがインクルージョン促進につながるといった実証研究は少ないため、参考になる文献でした。
一方、タイトルで、Covid-19危機時の状況が強調されていましたが、分析そのものにおいては、「平時」と「危機時」の違いは検討されておらず、ちょっと「釣り」が入っているように感じました。(背景・問題意識の部分では一部、危機時・不確実性の補足はありましたが・・・)
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