
【インクルーシブ・リーダーシップ】ILとインクルージョンとの関連性を定性的に明らかにしたインドの研究(Kuknor & Bhattacharya 2021)
久々にインクルーシブ・リーダーシップの文献です。わざわざ、大学の文献複写サービスで取り寄せてまで読みたかった論文。(ただ、WEB上で購入するのをケチっただけです)
Kuknor, S., & Bhattacharya, S. (2021). Exploring organizational inclusion and inclusive leadership in Indian companies. European Business Review, 33(3), 450-464.
どんな論文?
この論文は、インドの企業における「インクルージョン」と「インクルーシブ・リーダーシップ」(IL)の関連性を、20名に対するインタビューを通じた定性分析によって探究したものです。
本論文でのインクルージョンとは、職場でさまざまな背景を持つ人々が尊重され、平等に参加できる環境を作る、という定義が用いられています。ILは、そのような環境を作り出すリーダーシップのスタイルで、特に多様性がある職場でのインクルージョンに有効とされています。

インドの企業における人事やD&I担当者など、20人の専門家にインタビューを行った結果、インクルージョンが人によって異なる理解を持たれていることが明らかになっています。
多くの企業はインクルージョンに関連する施策の案は持っているものの、それを実際に実行に移すことは難しい、というコメントが多かったようです。
また、リーダーの行動が職場でのインクルージョンを促進し、維持する上で重要な役割を果たすことが確認されました。
具体的には、リーダーが多様な意見を尊重し、すべての従業員が自分らしくいられる環境を作ることが重要とされています。
インドの企業がどのようにインクルージョンを理解し、実践しているかを定性研究で示すことや、ILが、インクルージョンを促進することで、企業の成功にどのように貢献するかを示した点において新奇性がある、と説明されています。
ILは、インクルージョンを促進するリーダーシップ??
過去の先行研究(例えば、Randel et al. 2018)では、ILの定義としてインクルージョンを促進するリーダーシップ、ということが謳われています。
そのためインクルージョンを、ILが促進するという今回の研究は、同義反復(トートロジー)ではないか、という点が頭に浮かびます。
文献内では、両者の違いが以下のように説明されています。
インクルージョン:組織内での多様な個々人が尊重され、平等に参加できるようにする環境そのものを指す。つまり、すべての従業員が自分らしく働ける職場環境を構築し、その中で各人の貢献が認められ、価値を持つことを意味する。
インクルージョンは、組織全体の文化やポリシーに関わるものであり、従業員一人ひとりの知覚に大きく影響するもの。
インクルーシブ・リーダーシップ:そのインクルージョンを促進し、維持するためのリーダーの具体的な行動や姿勢を指す。リーダーが多様な意見や背景を持つ従業員を受け入れ、尊重し、全員が平等に意見を出せる環境を作り出すことがインクルーシブ・リーダーシップの役割。
したがって、インクルージョンが目指すべき「状態」や「文化」であるのに対し、インクルーシブ・リーダーシップはその状態を実現するための「手段」や「行動」として位置づけられているのが違い、とのことです。
(ただ、Randelらの文献はこの論文で参照されておらず、それでよいのだっけ?という素朴な疑問は残ります。)
備忘①:インタビュー内容
今回の研究で用いられたインタビューは、以下のような設問を中心に行われたようです。今後の参考として備忘のため残します。
組織インクルージョン:
- 組織における「インクルージョン」という用語をどのように理解していますか? その次元や包含内容は何ですか?インクルージョンをどのように測定できますか?
- D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)には違いがありますか?
- 職場や文化においてインクルージョンを推進する要因は何ですか?それを文化とどのように結びつけますか?
- インクルージョンを促進するために組織が取っているイニシアチブは何ですか?
- 従業員の視点から見た場合、インクルージョンとは何ですか?
- インクルージョンが最も重要であると考えるのはどのレベルですか?
インクルーシブ・リーダーシップ:
- インクルージョンを促進・支援するリーダーの特性や行動は何ですか?他のリーダーシップスタイルとどのように異なりますか?
- HRやマネージャーの役割は何ですか?
- リーダーの行動が組織的包摂(OI)の促進に影響を与えますか?
※そのほか、組織的成果を尋ねるような質問も行われています。
備忘②:サーバントリーダーシップとの違い
ILと同様に、フォロワー目線のリーダーシップとして、有名なサーバントリーダーシップがあります。本論文では、過去の研究を参照しつつ、ILがサーバントリーダーシップと異なる要素を持つ、という点を主張します。
Salib(2014)は、サーバントリーダーシップとILを結びつけた。これらのリーダーシップ・スタイルはどちらもフォロワーのニーズについて語るもの であるが、2つのスタイルの間には確かに似たようなリーダーの行動がある。従業員のエンパワ ーメントと価値、社会的平等、異なる社会的期待に対する感受性は、サーバントとILの間で類 似したリーダー行動となり得る(Gotsis and Griman, 2016)。しかし、この類似性を統合する証拠は乏しい。
第二に、サーバントリーダーシップはILに似ているという理論が示唆されて いる(Salib, 2014)。しかし、実際には、ILには独自の特徴(包含の受容、受容性、鑑賞)がある ことがわかった。これは、ILに関する既存の理論に貴重な貢献をするものである。
感じたこと
インクルージョンとインクルーシブ・リーダーシップの関係を、定性研究によって明示的に示したという意味では、貴重な論文かもしれません。
同義反復っぽさもあるので、直接的な関連性は理論的にはツッコミどころもありそうですが。。。
(インドやバングラディシュで、ILの論文が時々出されていますが、先行研究レビューなどもイマイチ説得力に欠ける・・・という感想を持っています)