【インクルーシブ・リーダーシップ】ILの代表的な論文:Randel et al., (2018)

インクルーシブ・リーダーシップの代表的な研究者である、Randel教授らによって著された以下の論文について紹介します。

Inclusive Leadership: Realizing positive outcomes through belongingness and being valued for uniqueness
Amy E, Randel et al. In Human Resource Management Review, 28(2018)190-203

どんな論文?

この論文は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)の様々な論文を整理して、一つのモデルを提示したものです。ILとは何で、何がILに効いて(規定要因)、どのような影響を与えるのかをモデル化してくれています。

Randel et al., (2018)P191

ざっくりまとめると、

  • ILに効く規定要因は、リーダー個人の要素として、①多様性は良いものだ、という信念、②謙虚さ、③複雑さを認知できること、という3点

  • ILとは、①帰属意識を促進し、②メンバーの独自性に価値を置くリーダーの行動

  • ILによって、フォロワーが「インクルージョン」を知覚し、職場への同一性や、心理的なエンパワーメントが得られる

  • その結果、創造性や職務成果、離職低下につながる

と言うことになります。


ILと他のリーダーシップの違い

そして、この論文のありがたいのは、ILと他のリーダーシップの違いを整理してくれているところ・・・!これは駆け出し研究者にとっては、まるで神のような文献です。

Randel et al., (2018)P195

細かい整理は上の図の通りとして、簡単にまとめると以下の通り。

  • 他のリーダーシップの中にも、フォロワーに働きかけて動機づけしたり、エンパワーしたりするものがある

  • 例えば、変革型リーダーシップには、フォロワーの「個別配慮」という要素がある。しかし、変革型リーダーシップが、組織のニーズを満たすための動機付けを行うのに対し、ILは、フォロワーが自分らしい、独自の力を発揮するための働きかけを指す

  • また、エンパワーメント・リーダーシップは、力の共有やティーチング・コーチングといった点に依拠するが、ILは、組織に対する帰属意識を高めたり、個々人の独自性を喚起するようなもの

  • さらに、オーセンティック・リーダーシップは、リーダー自身の自分らしい行動やふるまいに着目するのに対し、ILはメンバーの自分らしさを活かした貢献に着目する


研究の限界

この研究は、過去の先行研究を丁寧にレビューし、まとめ上げることでモデル化した点が秀逸なのだが、このモデルの確からしさは、定量研究などで実証されておらず、今後の研究蓄積が待たれるところ。

リーダーシップの規定要因、つまりリーダーシップに影響を与えたり、高めたりするための要因はそう多くないと言われる(らしい)。ILの規定要因も、信念とか謙虚さとか複雑性に対する認知とか、ほかにないのだろうか、という点が気になるので、引き続き調べていきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?