【インクルーシブ・リーダーシップ】リモート環境下では、意味のある仕事とインクルージョンの醸成にILが有効(Byrd, 2022)
今回は、リモートワーク環境下で、ILがなぜインクルージョンに有効なのかを示した論文を紹介します。
どんな論文?
この論文は、リモートワーク環境において包摂(インクルージョン)と帰属の文化がどのように意味のある仕事を支えるかを考察したものです。
実証的な調査やレビューはないのですが、考えを提起した「Discussion Paper」的な位置づけかな、と個人的には感じました。
著者の問題意識として、リモートワークへの移行は、労働者の関与や帰属意識に影響を与え、社会的不正を生み出す可能性が言及されています。
こうした状況の打破に向け、著者はインクルーシブな文化を作ることの重要性に言及しています。ただ、課題として、組織の労働者が直面する問題に対応して文化を再構築することや、そのためにリーダーが、意味のある仕事を支え、帰属感を促進し、公平性と多様性を確保するために、リモート環境にインクルーシブな文化に移行する方法を見つける必要がある、と述べられています。
インクルージョンと、「Meaningful Work」
この論文では、インクルージョンと「Meaningful Work(意味のある仕事)」との関係に触れられています。
人々は、他者との相互作用を通じて仕事に意味を見出し、自分が組織の目的に貢献していると感じます。これは、仕事が人生の目標と一致し、帰属意識を高めるため(Schnell, Höge, and Pollet 2013)、意味のある仕事が大事だと指摘されています。
そして、インクルーシブな会社の文化では、個々の違いが尊重され、多様な才能が活かされ、全員が組織の一部であると感じられます。
これにより、従業員は仕事に対するエンゲージメントが高まり、意味のある仕事が促進されるとのこと(Mousa et al. 2021)。
一方で、インクルージョンと意味のある仕事の関連性が、リモートワーク環境だと難しくなるな理由として、以下が挙げられています。
社会的相互作用の欠如: リモートワークでは、対面でのコミュニケーションが減少し、孤立感が増す。これにより、他者との関係を通じて意味を見出す機会が減少する(Charalampous et al. 2019)。
感情的安定の欠如: リモート環境では、従業員が組織の一部であると感じる帰属意識が低下しやすくなる。これにより、仕事の意味が薄れ、エンゲージメントが低下するリスクがあります(Attfield, Barth, and Barth 2021)。
不平等と排除のリスク: リモートワーク環境では、社会的に疎外された個人がさらに不平等や排除を経験する可能性がある。ILがこれに対処しない限り、これらの問題は解決されにくい(Byrd 2015)。
なぜ、リモートワーク環境下のインクルージョンにILが有効?
ILがリモートワーク環境においてインクルージョンに有効と考えられる理由は、以下の点に基づいています。
協力と積極的なコミュニケーション:
ILは、協力的で積極的なコミュニケーションを重視する。リモートワーク環境では、物理的な距離がコミュニケーションの障壁となることが多いため、リーダーが意識的に協力とコミュニケーションを促進することで、チームメンバーが孤立せず、互いにサポートし合える環境が作られる。帰属意識の促進:
リモートワーク環境では、帰属意識の欠如が問題となる傾向がある。ILは、個々のメンバーがチームや組織の一部であると感じられるように取り組むことで、メンバーが仕事に対して意味を感じ、積極的に関与することが促進される。多様性と公平性の確保:
ILは、多様な視点と才能を受け入れ、それを活用することに重点を置く。リモートワーク環境では、地理的・文化的に多様なチームが形成されることが多く、その中で公平性を確保し、全員が平等に貢献できるようにすることが重要となる。社会的関係の維持:
リモートワークでは、社会的なつながりが弱まりがちとなる。ILは、信頼と尊重を基盤とした関係を築き、メンバーが安心して意見を述べ、協力できる環境を作るため、チーム内の絆が強まり、全員がインクルージョンを感じられるようになる。適応力と柔軟性:
インクルーシブ・リーダーは、文化的な適応の力や柔軟性を持ち、異なる視点や状況に柔軟に対応できる。リモートワーク環境は急速に変化することが多いため、適応力は非常に重要となる。
本文献では、こうした理由から、ILはリモートワーク環境において、メンバー全員が包摂され、帰属意識をはぐくみ、積極的に貢献できるインクルーシブな文化を作るのに有効だと主張されます。
補足:実務家目線のIL定義
この論文において用いられているILは、世界的なコンサルティング会社であるデロイトが独自調査によって提起した内容です。
インターネット上ではよく見かける定義ですが、学術界ではあまり触れられていない内容です。いわば、実務家目線で構築された定義、と言えます(持論に近い)。
ILは発展段階の概念なので、一様な定義が定まっていない状態です。例えば変革型リーダーシップのように、学術界でコンセンサスの取れた定義にもとづき、数々の実証研究を経て、その妥当性と正当性が確立されてきたものは、ある種の普遍性を備えていると言えそうです。
もちろん、実務家目線の定義に問題があるわけではないでしょう。特に今回のデロイトの定義は、おそらく様々な企業でも調査されてきたと推察されるので、一定の妥当性は担保されているはずです。
ただし、さまざまな国で、さまざまな研究者によって、頑健な統計的手法をもとに構築された概念と比べると、その普遍性に限界がある、とは言えるかと思います。(学術的な検証を経たら、普遍的と言えるかについても、いろいろ議論があるようです)
デロイトのIL定義については、こちらのハーバード・ビジネス・レビューの論文が詳しいので、興味がある方は参照してみてください。
感じたこと
従業員がインクルージョンの認識を得るのが、リモートワークの進展によってさらに難しくなっている中、ILの重要性と有効性が高まっている、という点を整理してくれる良論文でした。
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