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【パフォーマンス】研究で使用されるパフォーマンスという抽象的な概念を掘り下げたレビュー論文(Marshall et al., 2024)

研究上で頻出する用語の一つに「パフォーマンス」という言葉がありますが、わかっているようでわかっていない概念だと感じており、調べていたところよい文献を見つけました。

Marshall, J. D., Aguinis, H., & Beltran, J. R. (2024). Theories of performance A review and integration. Academy of Management Annals, (ja), annals-2022.



どんな論文?

この論文は、経営学における「パフォーマンス」に関連する、個人レベルおよび企業レベルを扱った239の理論をレビューし、6つのメタ理論(大括りにした理論)的な構成要素に統合したものです。

経営学領域におけるパフォーマンスは、組織や個人がどれだけ成果を上げているかを評価する重要な概念であり、パフォーマンスは、企業全体の業績から、個人の仕事の成果まで、さまざまなレベルで捉えられるものです。

例えば、企業レベルでは、売上や利益、マーケットシェアなどが典型的なパフォーマンス指標となり、組織全体の戦略や資源管理が評価の対象となります。
また、個人レベルでは、従業員の業務達成度やスキルの発揮度がパフォーマンスとして評価され、個々の貢献度が組織の成功にどれだけ寄与しているかが焦点となります。

(文献での例として、組織行動研究では、組織市民行動は「業務成果が生じる際の、社会的および心理的環境を支えるパフォーマンス」と位置付けられることもあるようです。行動がパフォーマンス(を生むプロセス?)と見なされる、ということでしょう)

しかし、これまでの研究では多くの理論がバラバラに存在し、全体像を把握しづらい状態だったようです。
そこで著者たちは、これらの理論を「能力(Capacity)」「機会(Opportunity)」「関連取引(Relevant Exchange)」という3つの要素にまとめ、それらを企業レベルと個人レベルに分けた、「COREモデル」として統合しています。

例えば、企業レベルでは「能力」は企業の持つ技術やリソース(Capabilities)、「機会」は組織の構造(Structures)や役割分担、「関連取引」は企業間や顧客との取引(Transactions)を指します。一方、個人レベルでは「能力(KSAOs)」は知識やスキル、「機会」はその人が果たす役割(Roles)、「関連取引」は他者との関係性(Relationship)を意味します。(英語箇所は、下の図と合わせています)

P11

著者らは、このモデルを使うことで、パフォーマンスに関する研究がより体系的になり、異なるレベルでのパフォーマンス(例えば、企業と個人)の共通点を見つけやすくなる、と主張します。

また、パフォーマンスを「プロセスか結果か」という二元論ではなく、全体として捉えることができるとのこと。


パフォーマンスにまつわる従来の問題点

パフォーマンス、という抽象的な概念によって、これまでどんな問題点があったのでしょうか?
この論文では、過去のパフォーマンス研究において、以下のような誤解や混乱が存在していたと指摘しています。

1.理論の断片化とサイロ化
パフォーマンスに関する理論が、個別の研究分野や分析レベル(例えば、個人レベルと企業レベル)で分断されて研究されてきた結果、理論が断片化され、互いに関連付けられることなく進展してきた模様。これにより、パフォーマンスの全体像を理解するのが難しくなり、異なるレベルでのパフォーマンス研究が互いに影響を与えないサイロ化が生じるとのこと。

2.理論やモデルの乱立
研究者が新しい理論的貢献を目指すあまり、既存の理論と重複する新しい理論やモデルが次々と提案されることがあり、理論の無秩序化、矛盾、そして冗長化が発生し、パフォーマンスの理解がかえって難しくなることがあったようです。
多くの理論が同じ現象を説明しようとする結果、理論の重複や競合が生まれ、現象の本質的な理解が損なわれています。

3.プロセスと結果の二元論的思考
過去の研究では、パフォーマンスを「プロセス」として捉えるか、「結果」として捉えるかという二元論的な思考が多く見られたとのこと。しかし、パフォーマンスは動的なシステムであり、プロセスと結果は互いに影響し合うもので、プロセスと結果を別々に扱うことで、パフォーマンス全体の理解が不完全になりがちである。

4.異なる言語や概念の使用
パフォーマンスに関する研究では、同じ現象や概念が異なる言語や表現で説明されることが多く、特にミクロ(個人レベル)とマクロ(企業レベル)の間で混乱が生じています。
この言語の違いが、同じ現象を異なる視点から理解することを妨げ、パフォーマンスに関する理論の統合が難しくなっています。

特に4は、自分自身でも無意識のうちに囚われていた部分かな、と感じました。


感じたこと

パフォーマンスという言葉への理解が少し進んだ気がします。COREモデルに照らして考えると、各研究で用いられる「パフォーマンス」を解像度高く捉えられそうです。

一方、業績や成果、という指標としての結果としてのパフォーマンスと、能力、機会、関連取引、といった成果を生むプロセスとしてのパフォーマンスの2つをどう使い分けるのか?という点については、引き続き疑問が残ります。
(結果とプロセスは二元論でなく、動的に絡み合っているということが頭ではわかりますが、活用場面でのイメージが沸いていない、という感じでしょうか。)

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