【リーダーシップ】不確実な時代には独裁的なリーダーに頼りたくなるメカニズムとは?(Hogg, 2033)
今回は、不確実な世界で起こるアイデンティティの危機と、グループとの同一視を求める心情や、関連する(危険ともいえる)リーダーシップの関連性を説いた論文を紹介します。
どんな論文?
この論文は、「自己不確実性」が、人々の行動やグループへの同一視にどのように影響を与えるかを探求したものです。
自己不確実性とは、自分が誰であり、社会や人間関係にどのように適合しているかについての不安感を指します。
この不安感を解消するために、人々はしばしば、明確で強いアイデンティティを持つグループに同一視し、そこに所属することで安心感を得ようとするようです。しかし、自己不確実性が極度に高まり、それを解決するためのリソースが不足していると、人々は排外的で独裁的なリーダーを持つグループに引き寄せられ、他者を排斥し、陰謀論を信じるようになる危険性がある、と本稿は指摘しています。
変化の激しい時代において、先の見えない状態は、不確実性の感覚を生み、適応的な行動を計画する能力が失われ、コントロールできない感じにさいなまれるとのこと。
不確実性が強くなると、私たちは「自分が誰であるか」「何をすべきか」についての確信が揺らぎます。これが自己不確実性と説明されています。
たとえば、「自分は本当にこの仕事に向いているのか?」「自分の価値観は正しいのか?」といった疑問が生じ、自己のアイデンティティが不安定になる状態を指すようです。
この不安や迷いを解消するために、人々は強力な指導者(時に独裁的なリーダー)や明確なグループアイデンティティを求めます。
ここで、シンプルで明確なメッセージを発信するリーダーや、強力で一貫したアイデンティティを持つグループに魅力を感じるようになります。
特に、独裁的なリーダーは、複雑な問題を単純化し、「これが正しい道だ」と強く主張するため、人々は安心感を求めてそのリーダーに従いやすくなるとのこと。
著者は、この状況を乗り越えるために、不確実性を脅威ではなく、克服可能な挑戦として捉える手段が重要であると指摘し、社会的安定を保つための方策を模索する必要性を強調しています。
不確実性を「挑戦」と捉えるために必要なこと
この論文では、不確実性を脅威ではなく克服可能な挑戦として捉えるための手段として、いくつかの方法が紹介されています。
1.複雑な自己概念の発展と維持:
自己の多様な側面を持ち、複数のアイデンティティを維持することで、一部のアイデンティティに不確実性が生じた場合でも、他の側面に依拠して自己全体の安定感を保つことが可能
2.社会的資源の提供:
人々が不確実性に対処するために必要な認知的、感情的、社会的および物質的リソース(例:カウンセリング、問題解決力向上、生活支援、コミュニティ活動)を容易に利用できるようにすることが重要。これにより、不確実性を解決不能な脅威としてではなく、克服可能な挑戦と見なすことが可能
3.アイデンティティのエコーチェンバーや誤った情報の排除:
誤った情報や、自己確認バイアスを強化するだけのエコーチェンバー※を減らすことで、自己不確実性を正しく認識し、解決できるようにする
※エコーチェンバー:同じような意見を見聞きし続けることによって、自分の意見が増幅・強化されること
4.疎外感の回避:
社会の中で人々が疎外され、無関係にされ、見えなくされることを避ける行動をとることも、不確実性を脅威ではなく挑戦として捉えるための手段とされています。
不確実な状況で求められるリーダーシップ
また、この論文では、不確実な状況下で求められるリーダーシップについて、いくつかの重要なポイントが説明されています。
指導的リーダーシップとプロトタイプ的リーダー:
不確実な状況下では、人々は自分たちのグループのアイデンティティを明確にし、方向性を示してくれるリーダーを求めます。特に、グループの典型的なメンバー(プロトタイプ的リーダー)がリーダーシップの役割を担うことが好まれるようです。
プロトタイプ的リーダーは、グループのアイデンティティを最もよく体現しており、そのため、他のメンバーから信頼され、支持される傾向があります。こうしたリーダーは、グループのアイデンティティを定義し、強化する役割を果たします。
支配的かつ独裁的なリーダーシップ:
不確実性が高い状況では、支配的で独裁的なリーダーが支持されることがあります。人々は、強い信念とシンプルで明確なアイデンティティメッセージを持つリーダーを求め、彼らがグループの不確実性を解決してくれると信じます。ポピュリスト的なリーダーは、こうした状況で特に影響力を持ち、グループ内で権力を確立しやすいです。
(どこかの国で起こっていることのように思えます)
一部のリーダーは、不確実性を戦略的に利用し、アイデンティティに対する脅威を煽ることで、自らの権力を強化しようとします。このようなリーダーは、まず不確実性を高め、その後、解決策を提供することで、グループ内での影響力を確保するとのこと。
グループの断片化とサブグループのリーダーシップ:
グループ内でアイデンティティに対する不確実性が高まると、一部のメンバーはより明確で独自性のあるサブグループに強く同一視し、その集団のリーダー従うようになるようです。
このようなサブグループのリーダーは、アイデンティティが明確で一致していると見なされる場合に特に支持されやすいようです。
感じたこと
一言でいえば、「全員発揮のリーダーシップとまったく逆」と感じました。不確実性が高く、正解が定まりにくい時代には、全員発揮のリーダーシップによって、多様な視点・意見をもとに組織を導くようなシェアド・リーダーシップが重要、と学んできました。
一方、社会的アイデンティティ理論の側面から見ると、実は、不確実性の時代には、アイデンティティが揺らぎ、自己不確実性から独裁的・支配的リーダーに頼りたくなってしまう、という状況が生ずるとのこと。
全員発揮のリーダーシップが必要だけど、そう易々と実現しない、というパラドックスを超えることが、不確実性の時代には必要と言えそうです。
(パラドックスをどう乗り越えるのか、それが問題です)