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【ダイバーシティ】日本のダイバーシティ・マネジメントの現状(堀田, 2015)

今回も「ダイバーシティ」を取り上げます。ダイバーシティ研究全体については、過去の投稿で取り上げましたが、今回は、日本のダイバーシティ・マネジメントの現状を整理している、以下の論文を紹介します。

堀田彩. (2015). 日本におけるダイバーシティ・マネジメント研究の今後に関する一考察. 広島大学マネジメント研究, 16, 17-29.

こうしたレビュー論文、本当にありがたいです。様々な先行研究を調べ、纏め、整理してくださるので、私のような後発の研究者にとっては大きな助けとなります。

どんな論文?

日本における、ダイバーシティ・マネジメントの有効性を高めるために必要な研究の方向性を検討したものです。
これまでの研究を紐解き、歴史と現状を整理し、日米の比較等を通じて、以下の4つの方向性を導き出しています。

  1.  日本の研究において蓄積されてきたダイバーシティが経営成果につながるとする理論モデルを実証すること

  2.  ダイバーシティが経営成果につながる前提を明らかにすること

  3.  研究の対象にするダイバーシティに深層的なダイバーシティを加えること

  4.  ダイバーシティの負の影響について考慮していくこと


重要だと思うポイント

まず、ダイバーシティが経営成果につながるとする理論モデル、について、論文から補足します。(モデルとは、何が、何に、どう影響与えるかのプロセスを指します)

1990年代になると、ダイバーシティを用いて経営成果を向上させるマネジメントの手法が研究されるようになりました。それらの研究によると、ダイバーシティが、創造性とイノベーション、チーム・パフォーマンスに影響する可能性があるとされています。

しかし、ダイバーシティと経営成果の直接的な因果関係を示す理論や実証結果は、現段階では一貫されていないようです。他方で、間接的な成果に結びつくプロセスを明らかにする研究は増えています。

間接的成果とは、「他の要素」を介して、成果に影響を与える、という意味です。ここでいう他の要素を例示すると、

  • 年齢・国籍・学歴の多様性 → 情報交換によるタスク関連情報の精緻化 → 効率、革新性、生産性、品質といったチームパフォーマンスの向上(Kearney & Gebert, 2009)

  • 人種民族の多様性 → ジョブローテーション・クロストレーニング、情報伝達、組合の参加といった従業員の関与の多さUP → 組織の革新性の向上(Yang & Konrad, 2011)

  • 職能の多様性 → 協働・正確な情報交換・意思決定の分権化 → 経営陣の意思決定の質向上(Certo et al., 2006)

日本の研究では、以下のような事例があります。

  • 経営陣における女性取締役の比率が高いこと、女性取締役の個々の属性よりも組織内でより意思決定に影響を与えるポジションにいることが、それぞれ財務的な経営成果と正の相関がある(石川, 2009)

上に見たように、一貫した研究成果ではなく、バラバラとしている状況です。また、日本においては、前述した研究のように「相関」、つまり、どちらかが向上すれば、どちらかも高まる、ということは示されましたが、「因果関係」を推論するような実証研究は少なく、今後の課題となっているようです。


続いて、ダイバーシティが経営成果につながるための前提です。
なぜ、この「前提」に焦点が当たるかと言えば、さまざまな「文脈」によって、仮に同じマネジメントを行ったとしても、多様性が成果につながるプロセスは異なると想定されるためです。

ここでは、文脈の一例として、タスクの特徴、組織文化、チーム風土とチーム内での相互作用プロセス、戦略、時間要因、多様性風土(Climate for diversity)や、包摂的な風土(Climate for Inclusion)に関する研究が紹介されています。

日本に目を向けると、医療チームにおける心理的安全性の影響や、組織文化の影響が、文脈要因として研究されています。ただし、成果要因として、経営成果の直接・間接的な影響までは見られておらず、どのようなマネジメントにより、多様性が経営成果につながるのかを明らかにする研究が課題とのこと。

次に、深層的ダイバーシティを対象とする研究です。
興味深いことに、性別や年齢、学歴といったはっきり識別できる表層的ダイバーシティが、プラスだけでなくマイナスの影響を及ぼす研究はあり得ても、価値観や能力といった深層的なダイバーシティがマイナスの影響を及ぼす研究は見当たらない、との指摘があります(谷口, 2005)。

要するに、深層的なダイバーシティに着目し、そこにリーチするのは(リーチすることこそ)プラスの効果につながる、ともいえるかもしれません。単に研究が不足している、という可能性もありますが、、、

日本においては、既存研究の整理や概念化の試みから、深層的なダイバーシティが意思決定の質や課題解決能力を高め、創造性やチーム・パフォーマンスに影響することが示唆されているものの、実証研究は乏しい状況のようです。


最後に、ダイバーシティによる負の影響です。
簡単にまとめると、集団の中の多様性が、ミスコミュニケーションやコンフリクトを生じ、従業員の不満足やコミットメントの低下を引き起こして、パフォーマンスを低下させる可能性があるようです。


感じたこと

ダイバーシティが経営成果につながるといっても、そのメカニズムや前提としての文脈はまだまだ明らかにされていない、それは日本においても同様、ということが一番の発見です。

ダイバーシティが経営成果に影響する、という言説が、一定程度市民権を得てきてますし、政府もダイバーシティの促進を進めています。

一方、現場の声としては、「多様性に配慮しすぎると意思決定が遅くなる、ビジネスは常に動いているのだから、情報共有を丁寧に行うコストもばかにならない」といった声も聞こえてきます。


だからこそ、研究の出番かな、と思っています。実証研究を通じて、

なぜ、多様性を活かす必要があるのか、
どのように活かすのが有効なのか、

という点を少しでも明らかにできれば、現場により納得性のあるメッセージとストーリーを届けられるかもしれない、と考えています。(そのためにもまずは研究結果を出せるよう頑張らなくては・・・・)



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