【リーダーシップ】上司-部下の関係性における新たな視点を提供した論文!LMXの質はどう分けられる?(Buengeler et al., 2021)
今回は、リーダー-メンバー交換(Leader-member Exchange: LMX)に新たな知見を提供した、比較的新しい論文を紹介します。
どんな論文?
本研究は、LMXに関して、「LMX分化」(LMX Differentiation)という新たな考え方を提示したものです。
上司と部下の関係性を表すLMXですが、LMXの質は上司-部下によって異なる、との考えから、グループ多様性の分類にしたがって、LMXの質についての分類を理論モデルとして打ち出しています。
よくよく考えると、上司も部下も多様な存在なので、その関係の質も違って当然なのですが、LMXについては、質の高さー低さにばかり目が行っていた自分がいました。。。
これまでのLMX研究の限界を超え、新たな知見を提示しています。まず、これまでのLMX研究の限界を見ていきます。
これまでのLMX研究の限界
この文献のオリジナリティは、過去のLMX研究の限界を明らかにし、LMX研究を拡張した点にあります。では、どんな限界があったのでしょうか?
1.全体的な関係の質に焦点
以前の研究は、主にLMXの「全体的な関係の質に焦点」を当てていました。これは、リーダーとフォロワーの間の関係が信頼、尊敬、好意、および相互の社会的交換に基づいて評価されるものでした(Graen & Uhl-Bien, 1995; Liden & Maslyn, 1998)。そのため、関係の質の種類には議論が及んでいません。
2.二分法的なアプローチ
先行研究の多くは、LMXを高い質と低い質の二分法として捉え、リーダーがいわゆる「内グループ」と「外グループ」を形成することに重点を置いていました(Dansereau et al., 1975)。
これにより、高い質のLMX関係を持つフォロワーはリーダーからより多くのリソースや支援を受ける一方、低い質の関係を持つフォロワーはそうではないとされました。このように、高いー低いの二分法でしか、関係性を調べられていなかったのです。
3.平均LMXの測定
多くの研究は、グループ全体の平均LMXを測定し、これがグループの成果に与える影響を分析していました(Anand et al., 2015)。しかし、平均LMXの測定は、グループ内の個々の関係の質の違いを考慮に入れられていませんでした。
LMX分化とは?どんな形態がある?
著者らによると、LMX分化(Leader-Member Exchange Differentiation)とは、リーダーがそれぞれのメンバーと異なる質の関係を築く現象を指します。
これは、リーダーが全てのメンバーに対して同じように接するのではなく、特定のメンバーと強固で高品質な関係(高LMX)を築く一方で、他のメンバーとは比較的低品質な関係(低LMX)を築くことを意味します。このような差異化は、組織内での役割や能力、貢献度に基づいて行われることが多いです。
LMX分化は、次の3つの形態に分類されるようです。
距離:セパレーション(Separation):
グループ内の意見や価値観、信念に基づく不一致を表す。高LMXと低LMXのメンバー間で明確な境界が形成されることが特徴。これにより、内グループと外グループが形成される。
負の影響として、モラルや結束力の低下、信頼の低下、関係性の対立増加、社会的・行動的統合の低下、離職率の上昇、タスクパフォーマンスの低下が考えられるとのこと。
種類:バラエティ(Variety):
メンバーが異なる種類の知識、スキル、経験を持つことを強調する。リーダーがメンバーの独自の能力や役割に応じて異なる関係を築くことで、グループ全体の創造性や意思決定の質が向上。
正の影響として、コーディネーションの向上、タスクの対立(健康的な対立)、創造性やイノベーションの向上、意思決定の質の向上、複雑なタスクのパフォーマンス向上が考えられるとのこと。
格差:ディスパリティ(Disparity):
社会的資産やリソースの不平等な分配を示すもの。特定のメンバーがリーダーの注目や機会へのアクセスなどのリソースを不均等に受けることで、グループ内に階層が形成され、競争や不公平感が生じる可能性あり。
負の影響として、公正感や公平感の低下、コミュニケーションの質の低下、メンバーの入力減少、グループ内競争の増加、対人関係の破壊行動、離職率の上昇が考えられるとのこと。
以下は、それぞれを図示したものです。
LMX分化はどう測定する?
この文献は理論モデルを提示したばかりなので、今後の実証研究が俟たれるところです。LMX分化を測定する方法についても画像を貼り付けておきます。
いろいろな指標があるようです。数式ばかりなので、理解が難しいですが、、、。
感じたこと
LMX研究において、一石を投じるような新規性ある研究だと感じました!
特に、インクルーシブ・リーダーシップのように、多様性と関連する研究に携わっていると、上司-部下の関係も、高いー低いといった軸だけでなく、もう少し精緻に見ていく必要性を感じていました。
そして、LMX研究(リーダーシップ研究)と、多様性研究が交差した研究とあって、個人的にはかなり興味深く感じています。
この研究で参照されている、Harrison&Klein(2007)が示した、多様性の種類の研究も、自分の多様性に関する見方をアップデートしてくれたものでした。この研究を紹介した過去の投稿も貼り付けておきます。