【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがイノベーティブな行動に効くメカニズムとは?①(Javed et al., 2019)
始めに告知です。
まだ、研究業績もない自分が登壇というのも気が引けるのですが、アウトプットすることで、自分のインプットに繋がるということをモチベーションに、DE&Iに関するセミナーに登壇します。よろしければご参加ください。
そして、今日の話題は、IL×革新的行動です。パキスタンのJaved氏らの編んだ論文ですが、Javed氏はILに関する論文を量産している方です。
ここから何回かに分けてレビューしていきたいと思います。
どんな論文?
この論文は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)が、心理的安全性を媒介として、イノベーティブな行動(Innovative Work Behavior:IWB)に影響する、というモデルを実証したものです。
モデルは以下の通りシンプルです。
データはパキスタンの繊維産業で働く上司と部下の二人組、20組織180組から収集され、部下からILと心理的安全性、その上司からIWBを尋ねるという方法を採っています。このように、複数の回答者からデータを収集することで、バイアスを防ぐことが出来ます。
結果として、ILはIWBと正の相関があり、心理的安全性は、ILとIWBを媒介することが示唆されました。
IWBが求められる背景
イノベーションが必要というのは、多くの会社に通底することと思いますが、先行研究的な観点で、著者らは以下のようにまとめています。
粗くまとめると、ダイナミックに変化するビジネス環境において、イノベーションは欠かせない要素、とのこと。(少し、論理構築の度合いは弱い気もしますが・・・)
また、著者らは、インクルーシブ・リーダーシップは従業員を尊重し、困難でチャレンジングな目標に挑戦することを奨励し、それらの特定の目標を達成するための従業員の努力と貢献を認め、評価し、従業員の問題に積極的かつタイムリーに対応する応答的な行動を示すものであるため、ハードルの高いIWBへの挑戦が高まる、という想定を行いました。
心理的安全性の媒介効果
論文において、IWBは、仕事への取り組みで「伝統的な方法」を回避し、新しい仕事手段を探求し、実行する非日常的な行動であるため、従業員はイノベーションのプロセスを進めるために心理的安全性を必要とする(Edmondson & Lei, 2014)と述べられています。
つまり、イノベーションには、対人リスクを恐れず発言できる職場環境が必要、ということを意味します。
イノベーションの文脈では、従業員は新しいアイデアを提案することで、対人リスクを冒すかもしれません。新しいアイデアの開発と実行は、こうした高いリスクを伴う可能性が先行研究でも述べられているようです(Ellen Mathisen, Einarsen, & Mykletun, 2012)。
一方で、イノベーションには失敗がつきものです。Gong, Cheung, Wang, and Huang (2012)は、ほとんどのアイデアは失敗するため、新しいアイデ
アの創出が望ましい目標の達成を保証するものではないと指摘しています。
また、斬新なアイデアは、職場において逸脱した行動と受け取られ、拒絶される可能性があるとも指摘します。
従って、従業員は、創造的な試みに内在するリスクを冒す行動のために、心理的に安全な環境を必要とし(Kanfer & Ackerman, 1989; Edmondson, 1999)、安全であると感じられれば、より安心して意見を述べることができる(Morrison, 2011)というのは、納得感があります。
こうした分析から、ILがIWBに影響を与えるためには、安心して失敗できる、リスクを感じない職場としての心理的安全性が重要、と整理しています。
感じたこと
研究はごくごくシンプルなモデルですが、IL研究を次から次へと世に出しているJaved氏ですが、本研究がもっとも参照されているものです(2023/8/29時点でにおけるGoogle Scholarで341件)。
インクルーシブ・リーダーシップが、イノベーティブな行動につながるメカニズムを丁寧にレビューしているのは参考になりますが、何より、上司と部下のペアを180組集めて分析した、という研究デザインがユニークです。
このように、イノベーションに繋がるリーダーシップとして、ILの実証研究が増えていくことは、私としても嬉しいことですが、こうした研究者に負けないように早く研究を世に出さねば新奇性・独自性が薄れる、という危機感もわいてきました。頑張ろう。